相続税更正処分等取消請求控訴事件
【事件番号】 福岡高等裁判所判決/平成16年(行コ)第7号
【判決日付】 平成16年11月26日
【判示事項】
(1) 更正処分のうち、申告額を超えない部分について取消しを求める訴えの適法性(原審判決引用)
(2) 租税特別措置法69条の3(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)の趣旨(原審判決引用)
(3) 租税特別措置法69条の3第1項1号(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)の特定居住用宅地等の範囲(原審判決引用)
(4) 租税特別措置法69条の3(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)の立法趣旨に照らせば、従来現実になされていた被相続人等の居住が相続開始時に一時中断され、その間に相続が発生した場合であっても、居住の中止が公共事業を施行するための仮換地処分及び従前の宅地並びに仮換地の使用収益が共に禁止されたことによるものであり、
かつ、
仮換地指定の時に従前の宅地を現実に居住の用に供し、
さらに、
仮換地の使用収益が認められるまでは仮設住宅に居住するなどして、仮換地の使用収益が認められるようになれば仮換地における居住の再開が確実に予定されている場合には、仮設住宅における居住は、法律上の評価としては、従前の土地や仮換地における居住と同視して、当該土地が「居住の用に供されていた土地」と解して、同特例を適用するべきであるとの納税者の主張が、
相続税の課税対象となる財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるのであり(相続税法22条(評価の原則))、その時価とは課税時価(すなわち相続開始の時)における財産の現況に応じて評価された価額であると解せられ、相続税法及び租税特別措置法等租税法規の適用は、租税法律主義の原則及び課税の公平の原則並びに迅速な課税処理という徴税技術上の観点から、
相続開始の前後の事情を問わず、相続開始時の現況に基づき一義的な統一的、画一的な基準によって判断されるべきであり、
租税法規についてその規定の文言を離れてみだりに拡張解釈することは、租税法律主義の見地から相当でなく、同特例のような例外的な措置については特に厳格に解釈するべきであるから、
相続開始時において、居住用建物の建築計画があるだけで更地の状態にある土地に、法律上の評価として居住があると認めて、同特例にいう居住の用に供されていた宅地等で建物若しくは構築物の敷地の用に供されているものに該当すると解することは、解釈の限界を超えるものであって相当ではないとして排斥された事例(原審判決引用)
(5) 土地区画整理事業における仮換地について、同地の使用収益が可能になった際に、同地における居住の再開が確実に予定されているような場合は、租税特別措置法69条の3第1項(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)を適用すべきであるとの納税者の主張が、相続開始時において、更地であった同地について上記特例の適用はないと判断された事例
【掲載誌】 税務訴訟資料254号順号9837
について検討します。
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 平成10年10月18日相続開始に係る控訴人らの相続税について、被控訴人が平成12年6月30日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。
2 被控訴人
主文と同旨
第2 事案の概要等
1 本件事案の概要は、次のとおり付加及び訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」、「第2 事案の概要等」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決4頁16行目の「新築」の次に「、所有者控訴人甲(乙10)」を加える。
(2) 原判決5頁16行目の「別表1」を「原判決別表1」と、同17行目の「別表2」を「原判決別表2」と、同行目の「別表3」を「原判決別表3」とそれぞれ改める。
2 控訴人らの当審における主張
本件土地が「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」に該当し、本件特例が適用される場合において、仮に、控訴人らが「被相続人と生計を一にしていた親族」に該当しないときは、控訴人らが納付すべき相続税額は、控訴人甲につき、その確定申告額である338万9900円から457万9500円に増額となり、控訴人乙につき、その確定申告額である308万9200円から364万3700円に増額となるので、本件更正処分のうち、控訴人甲について税額457万9500円を超える部分が、控訴人乙について税額364万3700円を超える部分が、それぞれ取り消されるべきである。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、本件更正処分のうち、控訴人らの各申告額を超えない部分について取消しを求める訴えはいずれも不適法であり、本件更正処分及び本件賦課決定処分は、いずれも適法であると判断する。その理由は、次のとおり付加及び訂正正するほかは、原判決の「事実及び理由」、「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決13頁13行目を次の行に改めて、
「 なお、控訴人らは、原判決は、最高裁判決(最高裁昭和63年(行ツ)第152号平成2年6月5日第三小法廷判決)に違背しているとするが、本件は、上記最高裁判決と事案及び判断を異にするものであり、原判決の前記判断が上記最高裁判決に抵触していると解することはできない。」
を加える。
2 原判決14頁13行目の「しかしながら」を「前示の本件特例の趣旨、規定内容及び本件通達の趣旨に照らす」と改める。
3 原判決15頁26行目の「その事業」から原判決16頁1行目の「制約があること」までを、「相続開始の直前において、当該土地が、居住用建物の敷地として現実に使用されている客観的状態に着目して、その事業又は居住の用を廃して居住用宅地等を処分することに相当の制約があるため、通常の取引価格を基礎とする評価額を適用することが必ずしも実情に合致しないこと」と改める。
4 原判決16頁16行目の次に行を改めて
「 控訴人らは、控訴人ら及び丁は、本件土地上にあった建物に居住していたが、本件土地が本件事業の対象となって立退きを求められたことから、本件事業に協力するため、上記居住建物を取り壊した上、本件仮換地上に本件ビルを建築して居住することを希望して、仮設住宅に転居していたところ、
本件仮換地についての使用開始日が到来する前に、丁が死亡して相続が開始したものであり、
また、本件土地及び本件仮換地の使用収益がいずれも禁止されていたため、相続開始前には、本件ビルの建築に着工することができなかったのであるから、
このように、控訴人らの自己都合によらない事情により相続開始時に居住用建物の敷地としての使用が一時中止されていたものの、仮換地の使用収益が可能になった際に、同地における居住の再開が確実に予定されているような場合は、本件特例を適用すべきあると主張する。
前記認定の事実及び証拠(甲8)によると、控訴人ら及び丁は、平成9年7月ころには、本件仮換地に自宅兼賃貸住宅用のビルを建築することを決めており、
平成10年6月15日以降は、株式会社百田工務店との間で、具体的な本件ビル建築計画を協議していたこと、
控訴人甲は、平成12年3月27日ころに、本件仮換地の使用開始日を同年4月1日とする通知を受けたこと、
控訴人らは、その約2か月後である同年5月21日に本件ビルの新築請負契約を締結し、
同年6月5日には新築工事に着工していることが認められるから、控訴人ら及び丁は、本件仮換地に居住用建物を建築することを計画し、準備してきたもので、
本件仮換地の使用収益が可能になった時点において、速やかに本件ビルの建築工事に着手することが可能な状況であったものと認められるが、
本件においては、本件仮換地の使用開始日が定められる以前に丁が死亡し、その相続開始時においては、本件土地及び本件仮換地がいずれも更地であったのであり、前記各土地が相続開始の直前において、居住用建物の敷地として現実に使用される状況にはなかったのであるから、
本件特例の適用はないといわざるを得ない。
したがって、相続開始時において、控訴人らが主張するような事由が存したとしても、これによって、本件特例が適用されると解することはできない。
また、控訴人らの当審における主張も、本件特例が適用されることを前提とするものであり、本件土地について本件特例が適用される場合に該当しないことは前記説示のとおりであるから、理由がない。」
を加える。
第4 結論
以上のとおり、本件土地について本件特例の適用を認めることはできないから、本件更正処分及び本件賦課決定処分をいずれも適法とした原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官 星野雅紀
裁判官 近下秀明
裁判官 野島香苗