高齢の父に代わり本邦在住の親類を訪問する必要性

 

 

 

 

 在留資格認定証明書不交付処分取消請求事件、【事件番号】東京地方裁判所判決/平成19年(行ウ)第547号、判決 平成20年1月25日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は,原告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

   大阪入国管理局長が原告に対し平成19年6月20日付けでした在留資格認定証明書不交付処分を取り消す。

 

 

 

第2 事案の概要

   本件は,アメリカ合衆国(以下「合衆国」という。)国籍を有する日系二世である原告が,出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)の規定に基づき,「日本人の配偶者等」に係る在留資格認定証明書の交付申請をしたところ,法務大臣の権限の委任を受けた大阪入国管理局長(以下「大阪入管局長」という。)から,法所定の上陸拒否事由に該当することを理由として,不交付処分を受けたことから,その処分の取消しを求めた事案である。

 

 

 1 関係法令の定め

  (1) 法7条の2第1項は,法務大臣は,本邦に上陸しようとする外国人から,あらかじめ申請があったときは,当該外国人が法7条1項2号に掲げる上陸のための条件に適合している旨の証明書(在留資格認定証明書)を交付することができると定め,法施行規則6条の2第5項ただし書は,在留資格認定証明書の交付申請をした外国人が法7条1項1号,3号又は4号に掲げる上陸のための条件に適合しないことが明らかであるときは,在留資格認定証明書を交付しないことができると定めている。

 

  (2) 法7条1項4号は,上陸のための条件として,当該外国人が法5条1項各号のいずれの上陸拒否事由にも該当しないことを掲げ,法5条1項4号は,上陸拒否事由として,日本国又は日本国以外の国の法令に違反して1年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者(政治犯罪により刑に処せられた者を除く。)を掲げている。

 

 

 2 本件の経緯等に関する事実(各末尾に掲記の証拠により認められる。)

 

  (1) 原告は,1952(昭和27)年○月○○日,合衆国において,日本人の父母の子として出生した,合衆国国籍を有する外国人である。(乙1,6,7)

 

  (2) 原告は,合衆国地方裁判所において,未登録銃器の所持の罪で16か月の禁固刑の判決を受け,1990(平成2)年6月11日,ランポクFCI(連邦矯正施設)に収容された後,1991(平成3)年8月9日,保護観察付きで釈放され,1994(平成6)年6月13日,保護観察期間が終了した。(乙3,8,弁論の全趣旨)

 

  (3) 原告は,平成19年5月8日,法7条の2第1項に基づき,法務大臣の権限の委任を受けた大阪入管局長に対し,代理人を通じ,在留資格「日本人の配偶者等」,在留期間1年とする在留資格認定証明書の交付を申請した。(乙2)

 

  (4) 上記申請に対し,大阪入管局長は,平成19年6月20日,原告が法5条1項4号に定める上陸拒否事由に該当しているとして,在留資格認定証明書を不交付とする決定をし(以下「本件不交付処分」という。),上記代理人を通じ,原告にこれを通知した。(乙5)

 

 

 

 

 

 3 争点及び当事者の主張

 

   本件の争点は,本件不交付処分において,原告が法5条1項4号の上陸拒否事由に該当していることを理由として,在留資格認定証明書を不交付としたことの適法性である。

 

 

  (1) 被告の主張

 

    原告は,合衆国地方裁判所において,未登録銃器の所持の罪で16か月の禁固刑の判決を受けており,法5条1項4号の上陸拒否事由に該当し,法7条1項4号の上陸のための条件に適合しないことが明らかである。

 

    この場合,法施行規則6条の2第5項ただし書により,在留資格認定証明書を交付しないことができるから,本件不交付処分は適法である。

 

 

  (2) 原告の主張

 

    原告が刑の執行を受け終えてから10年以上が経過し,また,高齢の父に代わって本邦在住の親類を訪問する必要があるなど,原告には法12条1項3号の特別に上陸を許可すべき事情がある。

 

    それにもかかわらず,原告に対し在留資格認定証明書を交付しないことは,裁量権を逸脱,濫用するものとして違法であり,憲法及び市民的及び政治的権利に関する国際規約の精神にも反する。

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

 

 1 法7条の2の在留資格認定証明書制度は,法7条1項各号所定の上陸のための条件のうち,同項2号の在留資格に係る条件への適合性について,本邦に上陸しようとする外国人が,本邦の出入国港での上陸審査の場において,これを短時間で立証することが困難な場合が多いことを考慮し,当該外国人からの申請に基づいて,あらかじめ法務大臣がその条件適合性を審査・認定し,証明書を交付することができることとして,入国審査手続の簡易・迅速化と効率化を図ったものであるから,本邦に上陸しようとする外国人が在留資格認定証明書の交付申請をせず,あるいは申請した在留資格認定証明書の交付を受けることができなかった場合であっても,在留資格に係る上陸条件適合性についての一切の立証が許されなくなるわけではなく,当該外国人が,出入国港に到着した際の上陸審査等の手続において,改めて在留資格に係る上陸条件への適合性についての資料を提出し,その立証を行うことは何ら妨げられるものではない。

 

   そして,上記のとおり,在留資格認定証明書は,上陸のためのすべての条件への適合性を証明するものではなく,在留資格に係る上陸条件以外の条件(法7条1項1号,3号及び4号)への適合性については,上陸審査及びその後の口頭審理の場において別途の立証を要するものであるところ,

 

これらの在留資格に係る上陸条件以外の条件のいずれかに適合しないことが明らかである場合には,法務大臣に対する異議の申出の手続において上陸特別許可(法12条1項)が付与されない限り,当該外国人が本邦への上陸を許される見込みはないのであるから,

 

そのような場合において,在留資格に係る上陸条件への適合性のみをあらかじめ立証させ,在留資格認定証明書を交付しておくことの実益は乏しく,むしろ,当該外国人が現に本邦に上陸しようとする際の上陸審査等の手続の中で,改めて在留資格に関する資料を含めた一切の関係資料を提出させて,これを一括して上陸特別許可の判断のための資料として用いることの方が,より合理的であるといえる。

 

 

   このようなことからすると,在留資格認定証明書の交付申請をした外国人が,法7条1項1号,3号又は4号に掲げる上陸のための条件に適合しないことが明らかである場合には,

 

同項2号の在留資格に係る条件適合性についての立証の有無にかかわらず,

 

法務大臣において,在留資格認定証明書を交付せず,

 

当該外国人の在留資格に関わる諸事情については,当該外国人が本邦に到着した後の上陸特別許可の許否の判断の際に,他の諸事情と一括して考慮することとすることも許されると解するのが相当であり,

 

法7条の2第1項の「交付することができる」との規定は,そのような場合の在留資格認定証明書の不交付を許容する趣旨を含むものと解される(なお,法施行規則6条の2第5項ただし書にもこれと同旨の規定があるが,これは法7条の2第1項の趣旨を確認的に明らかにした規定と理解することができる。)。

 

 

   これを本件についてみると,前記認定のとおり,原告は,合衆国地方裁判所において,未登録銃器の所持の罪で16か月の禁固刑の判決を受けた者であるから,

 

法5条1項4号の上陸拒否事由に該当し,

 

法7条1項4号の上陸のための条件に適合しないことが明らかである

 

 

(なお,法5条1項4号の上陸拒否事由に該当するといえるためには,

 

その規定の文言から明らかなとおり,刑に処せられた者であることをもって足り,

 

判決が確定した日や刑の執行を受け終わった日からの経過期間の長短等を問うものではない。)。

 

 

したがって,原告が法5条1項4号の上陸拒否事由に該当していることを理由として,在留資格認定証明書を不交付とした本件不交付処分は,適法である。

 

 

 

 

 2 原告は,原告に法12条1項3号の特別に上陸を許可すべき事情があることを考慮しなかった本件不交付処分は,裁量権を逸脱,濫用するものとして違法であり,憲法及び国際規約の精神にも反すると主張する。

 

 

   しかしながら,法12条1項3号の特別に上陸を許可すべき事情は,

 

当該外国人が現実に本邦の出入国港に到着し,上陸審査及び口頭審理を経た後に,法務大臣に対し異議の申出をした場合に,初めて当該外国人に対し上陸特別許可をするかどうかの判断において考慮されるべき事情であり,

 

本邦に上陸しようとする外国人からあらかじめ在留資格認定証明書の交付申請があった場合に,在留資格認定証明書を交付するか否かの判断において考慮されるべき事情ではないから,原告の主張はその前提を誤っており失当である。

 

 

 

第4 結論

 

   以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,仮執行宣言の申立てについては,原告の請求が財産権上の請求ではないので却下することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

 

    東京地方裁判所民事第3部

        裁判長裁判官  古田孝夫

           裁判官  工藤哲郎

           裁判官  古市文孝