賦課決定処分取消等請求控訴事件、 大阪高等裁判所判決/平成24年(行コ)第32号 、判決 平成25年1月18日、 判例時報2203号25頁について検討します。
【判示事項】
青色申告更正処分に付記された理由が法人税法一三〇条の求める理由付記として不備があるとして更正処分が取り消された事例
主 文
一 原判決を取り消す。
二 処分行政庁が控訴人に対して平成一九年一一月二八日付けでした控訴人の平成一五年四月一日から平成一六年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が一九万〇四一二円、納付すべき税額四万一八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
三 処分行政庁が控訴人に対して平成一九年一一月二八日付けでした控訴人の平成一六年四月一日から平成一七年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が一三万七九五一円、納付すべき税額三万〇一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
四 処分行政庁が控訴人に対して平成一九年一一月二八日付けでした控訴人の平成一七年四月一日から平成一八年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が一四万三四八九円、納付すべき税額三万一四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
五 処分行政庁が控訴人に対して平成一九年一一月二八日付けでした控訴人の平成一八年四月一日から平成一九年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が一三万〇三六九円、納付すべき税額二万八六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
六 訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
主文と同旨
第二 事案の概要
一 事案の要旨
(1) 請求の骨子
ア 本件は、財団法人である控訴人が、処分行政庁から、平成一九年一一月二八日付けで、次の(ア)ないし(エ)の各事業年度の法人税について各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受けたことに対して、上記各処分が違法である旨主張して、上記各更正処分のうち申告額を超える部分及び上記各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
(ア) 控訴人の平成一五年四月一日から平成一六年三月三一日までの事業年度(以下「平成一六年三月期」という。)
(イ) 控訴人の平成一六年四月一日から平成一七年三月三一日までの事業年度(以下「平成一七年三月期」という。)
(ウ) 控訴人の平成一七年四月一日から平成一八年三月三一日までの事業年度(以下「平成一八年三月期」という。)
(エ) 控訴人の平成一八年四月一日から平成一九年三月三一日までの事業年度(以下「平成一九年三月期」という。)
イ 以下、上記(ア)ないし(エ)の各事業年度を「本件各事業年度」、本件各事業年度の法人税の各更正処分を「本件各更正処分」、本件各事業年度の法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を「本件各更正処分等」、控訴人が本件各事業年度において営んでいた事業のうち、公益事業会計ないし不法投棄調査収集事業会計に区分して経理していた事業を「本件各事業」という。
(2) 訴訟の経過
ア 控訴人の主張する違法事由
控訴人は、
①本件各更正処分が財団法人である控訴人の非収益事業である本件各事業に対して課税するもので違法であること、
②被控訴人が本件各更正処分に付記した理由(以下「本件各付記理由」という。)は法人税法一三〇条の要件を満たすものではなく、不備があること、
③控訴人が本件各事業を収益事業として申告しなかったことについて、国税通則法六五条四項所定の正当事由が存在することを主張して、本件各更正処分等を取り消すよう求めた。
イ 原判決、本件控訴
原審は、
①本件各事業は収益事業に該当し、
②本件各付記理由は、法人税法一三〇条の要件を満たしており、
③国税通則法六五条四項所定の正当事由があるとは認められない旨判示し、控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで、控訴人は、原判決を不服として、本件控訴をした。
二 前提事実、当事者の主張等
本件の関係法令等の定め、前提事実、争点、当事者の主張は、次の三のとおり控訴人の当審補充主張を付加するほかは、原判決二頁末行から一三頁二〇行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
ただし、原判決一一頁六行目の「全く伺えない」を「全く窺えない」に改める。
三 控訴人の当審補充主張
(1) 争点(1)(本件各事業が収益事業に該当するか)について
ア 原判決は、
①本件各事業が法人税法施行令五条一項一〇号(平成二〇年政令第一五六号による改正前のもの。以下同じ。)の「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に該当するとしたうえで、
②同号イの適用除外についての要件を定める法人税法施行規則四条の三(以下、同規則が定める要件を、「実費弁償原則」という。なお、平成一五年財務省令第二八号による法人税法施行規則の改正前は、四条の四であったが、内容に変更はない。以下、改正後の条数のみを摘示する。)の適用を否定し、
③法人税法基本通達一五-一-二八(以下「実費弁償通達」という。)の適用も否定した。
イ しかしながら、法人税法施行令五条一項一〇号の法文形式(「請負及び準委任を業とする場合」と並列的に規定するものではないこと)からすると、
同号は、
民法六三二条の請負契約であることを当然にその前提としているものと解され、必ずしも請負契約とはいえない本件各事業に適用があるとするのは疑義がある。
ウ また、原判決は、本件各事業が法令の規定に基づくものではないと認定して、実費弁償原則の適用を否定するが、
本件各事業は、
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」に基づいて実施されたものであり、
法令の規定に基づくものではないとする原判決の認定は誤りである。
エ さらに、原判決は、実費弁償通達の適用に関し、「控訴人は本件各事業年度において本件各事業によって毎年約一億円の収益を上げている」ことを理由として「実費弁償により行われているとは言えない」として、同通達の適用を否定する。
しかしながら、控訴人の受託業務は、すべて東大阪市との契約及び同市の指導によって処理されてきたものであるところ、
当初その対価が極めて低く設定されていた結果、毎年赤字が発生したが、途中見直しが行われて委託料に対する剰余金が発生し、
そこから東大阪市に対する借入金を返済して赤字を減らしてきたという経過がある。
本件各事業が実費弁償(委託の対価が当該業務のために必要な費用の額を超えないこと)により行われているかを判断するにあたり、
「業務のために心要な費用」の内容が問題となるが、
ここでの問題は「当該年度の所得金額から借入金の返済をしたことが実費弁償に当たるかどうか」であり、
「業務の遂行上で発生した特別損失を補填するために発生した借入金の返済」は、当然に「業務のために必要な費用」に含まれると解すべきである。
これを認めないと、
控訴人は、未来永劫借金地獄から抜け出せないという不合理な結果となり、
実費弁償を認めた趣旨、
すなわち、
「課税の公平を害しない程度に非課税を認めること」を超えて健全な公益法人としての運営があやうくなりかねない。
また、
実費弁償を認めたもうひとつの趣旨である
「過大な利益を挙げている法人を非課税にしない」ことから考えても、
控訴人の場合には、実費弁償に該当するものとすることが許されると解すべきである。
(2) 争点(2)(本件各付記理由に不備があるか)について
ア 帳簿記載を否認しないでしたものであるか否か不明
そもそも、本件各付記理由は、次のとおり、帳簿記載を否認しないでしたものであるのか、そうでないのかが不明であるから、この点で既に違法である。
(ア) 判例法理
最高(ママ)昭和四七年三月三一日判決・民集二六巻二号三一九頁によって示された考え方は、
「青色申告更正処分に付された理由が、帳簿の記載に誤りがあったという趣旨か、あるいは租税実体法規を適用した結果なのかが不明な場合は、理由付記は違法であって、その更正処分は取り消されるべきである。」とまとめることができる。
(イ) 本件各付記理由
ところが、本件各付記理由には、
帳簿記載を否認してする更正であるとも、そうでないとも記載がなく、
記載の受託料や補助金について契約書を引用しているが、
帳簿にも記載がないのか、
帳簿にある収入を当該年度の所得に加算したのかが、
本件各付記理由の記載自体からは明らかでない。
(ウ) 小括
以上のとおり、本件各付記理由は、帳簿の記載に誤りがあるというのか、法の適用の結果であるのかが不明であるから、本件各更正処分はこの点で既に違法であって、取り消されるべきである。
イ 帳簿記載を否認しないでする更正の付記理由として不十分
仮に、本件各付記理由が帳簿記載を否認しないでしたものであるとしても、本件各付記理由は、次のとおり、帳簿記載を否認しないでする更正の付記理由として不十分であり、違法である。
(ア) 判例法理
判例法理によると、
青色申告更正には、
帳簿記載否認による更正と帳簿記載を否認しないでする更正とがあるところ、
帳簿記載否認ではない青色申告更正において求められる理由付記は、
更正処分庁の恣意抑制と不服申立の便宜という理由付記制度の制度目的を充足する程度のものであることを要し、
その記載は具体的に明示するものでなければならない。
そして、
更正の理由のうち、課税庁の判断の慎重と合理性が特に求められるのは、
課税庁と納税者との見解の相違のある点と考えられる。
また、
納税者も、
自分と見解の異なる点について更正理由を知りたいのであり、
不服申立の便宜を与える必要があるのも、同じく、課税庁と納税者の見解の相違のある点である。
したがって、
理由付記の趣旨目的からすれば、帳簿記載を否認しないでする理由付記においては、帳簿記載を前提としても課税がされる理由、つまり、帳簿記載の事実に対する法規の適用を「具体的に」示すことが必要となるのは当然である。
また、最高裁昭和六〇年四月二三日判決・民集三九巻三号八五〇頁(以下「最高裁昭和六〇年判決」という。)によると、
帳簿記載を否認しないでする更正における理由付記においては、
課税庁の判断過程を省略することなしに記載し、
課税庁が自己の判断過程を逐一検証できるものでなければならない。
同判決は、帳簿記載事実の指摘のほかに、課税庁の判断過程すなわち法規の適用関係を省略することなしに記載することが必要であるとの前提をとっているものである。
なお、更正の理由付記は、その理由を納税義務者が推知できると否とに関わりのない問題である。
(イ) 本件各付記理由
これを本件についてみるに、
本件各付記理由は、契約書と金額を特定して記載したうえ、「…委託料及び…補助金は法人税法二条一三号に規定する収益事業に該当します。」とするもので、法適用の一部を記載しているに過ぎない。
しかも、
本件各事業が法人税法で示す収益事業と判断するためには、
①本件各事業が法人税法施行令五条一項一〇号の「請負業」に該当すること、
②請負業であると判断した場合、同号イの適用除外についての要件を定める実費弁償原則が適用されないこと、
③さらに、法の平等の適用の見地から、実費弁償通達が適用されないことについて、それぞれ慎重に検討する必要があるのに、本件各付記理由には、その検討判断結果についての具体的な記載は全くない。
さらに、理由付記は、課税庁の判断過程を省略することなしに記載し、課税庁が自己の判断過程を逐一検証できるものでなければならないところ、
本件各付記理由には、本件各事業が収益事業に該当するとの結論に至る判断過程について何の記載もなく、処分行政庁が自己の判断過程を逐一検証することは全く不可能である。
加えて、本件の場合は、収益事業と判断するには膨大複雑な法人税法施行令、施行規則を検討して判断する必要があるから、少なくとも関係法規の適用関係だけでも理由に記載すべきである。
(ウ) 小括
以上のとおり、本件各付記理由は、処分行政庁の判断の慎重と合理性を担保しその恣意を抑制するという趣旨目的に反するものであり、この要件を欠いた本件各更正処分は違法である。
(3) 争点(3)(国税通則法六五条四項の正当な理由の存在)について
ア 控訴人は、平成七年の税務調査時において、公益事業部門の赤字が累積していたのであるから、黒字である収益事業部門と赤字である公益事業部門を合算して申告すれば、控訴人の所得が大幅に減り還付金が発生することが確実であった。
処分行政庁担当者は、平成七年の税務調査時においても、そのことを認識していたのであるから、控訴人が収益事業部門からあがる所得について、過剰な所得申告をしていることを指摘して、収益事業部門と公益事業部門を合算して申告するように指導し、あるいは職権で減額更正すべきであった。
これは、処分行政庁が戻すべき税金を還付しなかったという点において、「積極的な誤指導があったもの」と評価される。
イ また、控訴人においては、長年にわたり公益事業部門については非課税であるとの実務が定着し、処分行政庁は控訴人のかかる申告を黙認していたと評価でき、
平成一九年の税務調査に際しても、控訴人の公益事業部門に課税すべきかについては、処分行政庁の内部においても見解が分かれていたものである。
以上のような状況下において、控訴人が、公益事業部門については非課税扱いと認識して申告したことについては、真に納税者の責めに帰すことのできない客観的事情があったというべきである。
第三 当裁判所の判断
一 争点(2)(本件各付記理由に不備があるか)の検討
(1) 認定事実
上記第二の二で原判決第二の三を引用して認定した前提事実に加え、《証拠略》によると、次の各事実が認められる。
ア 控訴人の設立以降の税務申告内容
控訴人は、昭和四七年の設立後事業を始めた当初から、営む事業を公益事業部門と収益事業部門とに区分して経理を行っており、公益事業部門(し尿業務等の東大阪市からの委託業務部門)については毎年赤字が累積していたが、公益事業部門については収益事業に該当せず、非課税であることを前提に、収益事業部門からあがる所得について課税所得として税務申告を行ってきた。
控訴人は、平成七年の税務調査時においても、公益事業部門の赤字が累積していたので、収益事業部門と公益事業部門を合算して申告すれば、控訴人の収益事業部門からあがる所得が大幅に減り、還付金が発生することが確実であった。しかし、処分行政庁担当者は、平成七年の税務調査時においても、控訴人が過剰な所得申告をしていることを指摘して、収益事業部門と公益事業部門を合算して申告するような指導はしなかった。
イ 控訴人の収支
控訴人は、東大阪市の財政事情等により、設立後本件各事業の開始当初から、東大阪市から支払われるし尿業務等の委託費の原価割れ等のため赤字経営が続いて累積債務を増大させていき、平成三年には、銀行からの借入を、東大阪市からの無利子での一時借入に変更する措置がとられ、平成八年度末における東大阪市に対する負債総額は一九億九五〇〇万円に達した。他方、東大阪市からの新規業務委託等の支援策等により、控訴人の公益事業部門は、平成八年に黒字に転化し、平成九年から、剰余金を東大阪市に対する債務の返済の原資とするようになった。
控訴人は、本件各事業年度である平成一六年三月期には一億三〇〇〇万円、平成一七年三月期には一億三〇〇〇万円、平成一八年三月期には一億二〇〇〇万円、平成一九年三月期には一億四〇〇〇万円を、東大阪市に対する債務の返済に充てている。
ウ 平成一九年の税務調査
処分行政庁は、平成一九年四月二六日から二七日まで、控訴人に対する税務調査を行った。調査は、主として、控訴人の公益事業部門が法人税法施行令五条一項一〇号の請負業にあたるのか、東大阪市が控訴人に支払うし尿収集運搬業務等の委託料が実費弁償(その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないこと)といえるかどうか、剰余金の取扱い等に関して行われた。
上記税務調査に際して、控訴人担当者は、①控訴人は東大阪市の一〇〇パーセント出資で設立され、市の自治事務として、公益・公共的な業務を行っていること、②委託料の剰余金の処理方法は、法令・契約書には明記されていないが、東大阪市の指導により東大阪市からの毎年度の貸付金の返還に充てており、東大阪市長決裁並びに予算・決算を通じて東大阪市議会にも了解されていること、③剰余金の返還は東大阪市との協議のうえ、控訴人における支出額が当初の委託額を下回った場合、その剰余金分を返還しており、毎年一定額ではないこと、④請負業に関して、実費弁償方式により行う場合の「概ね五年間ごとの税務署長等への確認(申告)」(実費弁償通達が定める形式的要件)を失念していたことを説明した。
行政処分庁担当者は、控訴人担当者に対し、当初、「税務調査をした結果、最終確定ではないが非課税の方向である。控訴人が失念していた税務署長への申告に係る書類については、処分行政庁側で調整し、連絡する。」との見解を示していたが、後に、「課税に当たらないとしたのは誤指導によるものであり、委託料の剰余金は課税対象となる。」との見解が示されるに至った。
エ 本件各更正処分等及び本件各付記理由
処分行政庁は、平成一九年一一月二八日付けで、控訴人が営む事業のうち、本件各事業についても収益事業に該当するとして、本件各更正処分等をした。本件各更正処分の更正通知書に付記された本件各付記理由は別紙のとおりであり、収益事業の収入に該当すると認定した収入について、その契約書名や金額が具体的に記載され、これらが法人税法二条一三号に対する収益事業に該当する旨記載するものである。
オ 不服申立手続
控訴人は、本件各更正処分等を不服として、平成二〇年一月二五日付けで処分行政庁に対して異議申立てをしたが、処分行政庁は、同年四月二三日付けで同異議申立てを棄却する決定をした。上記異議申立手続において、控訴人は、控訴人が東大阪市と一体不可分の同市が運営する公益法人であり、本件各事業を収益事業と認定するのは不当であること、本件各事業の剰余金は東大阪市の指導に基づき同市に返還しているので実質的に所得が発生しておらず、実費弁償通達に該当すること等を主張した。
さらに、控訴人は、同年五月二一日、上記異議決定を不服として国税不服審判所長に審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成二一年四月三〇日付けで、これを棄却する裁決をした。控訴人は、審査請求手続においても、同様、控訴人が東大阪市と一体不可分の同市が運営する公益法人であり、本件各事業を収益事業と認定するのは不当であること、本件各事業の剰余金は東大阪市の指導に基づき同市に返還しているので実質的に所得が発生しておらず、実費弁償通達に該当すること等を主張した。
(2) 当裁判所の判断
上記認定事実に基づき、本件各付記理由について、法人税法一三〇条二項の要求する更正理由の付記として欠けるところがないか、以下、検討する。
ア 青色申告に係る法人税の更正に付記すべき理由の程度について
法人税法一三〇条二項は、青色申告に係る法人税について更正をする場合には、更正通知書にその更正の理由を付記すべきものとしている。これは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものと解される。
そして、一般に法が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定すべきである(最高裁昭和三八年五月三一日判決・民集一七巻四号六一七頁)ところ、
帳簿書類の記載を否認して更正をする場合においては、法人税法が青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するものというべきである。
他方、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、その更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することは要しないが、更正の根拠を、上記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の制度目的を充足する程度に具体的に明示するものであることを要すると解され、更正処分庁が当該評価判断に至った過程を検証しうる程度に記載する必要があるというべきである(以上につき、最高裁昭和六〇年判決)。
また、更正の理由付記は、単に納税者に更正の理由を示すに止まらず、更正の妥当公正を担保する趣旨をも含むものであるから、更正の理由を納税者が推知できる場合であっても、その理由を納税義務者が推知できると否とにかかわりがなく、付記すべき理由の程度が緩和されるものではないというべきである(最高裁昭和三八年一二月二七日判決・民集一七巻一二号一八七一頁参照)。
以下、上記の観点から、本件各付記理由が法人税法一三〇条二項の要求する理由付記として欠けるところがないか検討する。
イ 本件各更正処分は帳簿記載を否認しないでしたものであること
証拠(甲一の一ないし四、甲六の一ないし四、乙一〇九ないし一一四)及び弁論の全趣旨(被控訴人の平成二二年三月九日付け準備書面別紙一-一ないし四各注記欄、平成二三年二月八日付け準備書面一三頁上)によると、甲一の一ないし四の更正の通知書には、「収益事業収入計上漏れ」として、契約書名等を個々に明記し、該当する各事業の契約及び金額を指摘して所得に加算しており、帳簿についても書類についても何ら否認する旨の記載もないこと、当該契約書に記載されている金額及び控訴人が作成していた帳簿書類の記載と、本件各付記理由及びその別紙一「計上漏れ収益事業収入一覧表」に記載されている金額とが、一致することが認められる。
上記事実によると、本件各更正処分は、いずれも控訴人の受託業務、当該業務の契約年月日及び計上漏れとなっていた金額についての帳簿上の記載を覆すことなく、これらをそのまま肯定した上で、かかる業務が法人税法上の収益事業に該当するという法的評価により更正したものであることが認められるので、本件各更正処分は、帳簿書類の記載自体を否定することなしにされた更正処分である。
ウ 本件各更正処分に必要な法適用に関する判断
(ア) はじめに
本件各更正処分は、処分行政庁が、財団法人である控訴人の本件各事業について、収益事業に該当するとして、法人税法七条(平成二二年法律第六号による改正前のもの。以下同じ。)により課税の対象となる旨判断したものである。
処分行政庁の上記判断に際しては、以下述べる法令及び通達に関する判断が必要となる。
(イ) 法人税法の規定する収益事業の範囲
法人税法七条に規定する「収益事業」については、同法二条一三号において、「販売業、製造業その他政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。」と定義されている。
これを受けて、法人税法施行令五条一項は、収益事業に該当する事業を列挙し、同一〇号において、「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)のうち、イ・ロ・ハ・ニに掲げる以外のもの」が収益事業に含まれるものとしている。そして、同号イにおいて、「法令の規定に基づき国又は地方公共団体が事務処理を委託された法人の行うその委託に係るもので、その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかなこと、その他の財務省令で定める要件に該当するもの」は収益事業に含まれないものと定めている。
さらにこれを受けた法人税法施行規則四条の三は、上記法人税法施行規則五条一項一〇号イの「財務省令で定める要件」として、①その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないこと(一号)、②その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えるに至った場合には、法令の規定により、その超える金額を委託者又はそれに代わるべきものとして主務大臣の指定する者に支出することとされていること(二号)、③その委託が法令の規定に従って行われていること(三号)を定めている。
(ウ) 実費弁償通達
さらに、法人税法基本通達一五-一-二八(実費弁償通達)は、「公益法人等が、事務処理の受託の性質を有する業務を行う場合においても、当該業務が法令の規定、行政官庁の指導又は当該業務に関する規則、規約若しくは契約に基づき実費弁償(その委託により委託者から受ける金額が当該業務のために必要な費用を超えないことをいう。)により行われるものであり、かつ、そのことにつき、あらかじめ一定の期間(おおむね五年以内の期間とする。)を限って所轄税務署長の確認を受けたときは、その確認を受けた期間については、当該業務は、その委託者の計算に係るものとして、当該公益法人等の収益事業とはしないものとする。」と定めている。
エ 本件各付記理由について
(ア) 本件各付記理由の内容
控訴人の行う本件各事業が収益事業に該当するとの判断をするにあたっては、上記の法令及び通達に関する判断を経る必要があると解される。
ところが、本件各付記理由は、上記のとおり、収益事業の収入に該当すると認定した収入の金額については、各契約書に基づきその算定過程について具体的に記載するものであるが、法適用に関しては、「法人税法二条一三号に規定する収益事業の収入に該当する」との結論を記載するにとどまり、なぜ収益事業の収入に該当するのかについての法令等の適用関係や、何故そのように解釈するのかの判断過程についての記載が一切ない。
(イ) 本件各更正処分の理由等
本件訴訟における被控訴人の主張等に照らすと、処分行政庁は、本件各更正処分をした理由として、①本件各事業がいずれも法人税法施行令五条一項一〇号に規定する「請負業(事務処理の委託を受ける業に含む。)」に該当するものであり、②また、控訴人が受領する対価が事務処理のために必要な費用を超えないこと等について法令の規定が存在しないため、本件各事業は、法人税法施行規則四条の三が定める要件(実費弁償原則)を満たさず、③さらに、本件各事業の契約書等をみても、実費弁償により行われる旨の規定が存在せず、剰余金を原資として借入金を返済しても、それが実費弁償に当たるものではないうえ、本件各事業について処分行政庁の事前確認も得ていないので、本件各事業は、実費弁償通達が定める実体要件及び手続要件の双方を満たすものではない旨判断したことが認められる。
ところが、本件各付記理由には、法人税法施行令五条一項一〇号、同施行規則四条の三、実費弁償通達の各規定や、その適用関係についての判断過程の記載が一切ないことから、本件各付記理由の記載自体からは、処分行政庁が本件各更正処分をするに当たり、そうした法令等の適用関係やその判断過程を経ていることを検証することができない。
なお、青色申告理由付記は、納税義務者が更正理由を推知できる場合でも記載が必要であるから(前記最高裁昭和三八年一二月二七日判決)、控訴人が本件各更正処分の更正理由を推知できるか否かは、上記結論に影響を及ぼさないものである。
(ウ) 控訴人に対する税務調査等
特に、本件各更正処分については、上記(1)ア、ウで認定した次のaないしcの事実を指摘することができ、これらの事実に照らせば、行政処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える必要があるのは、主として、本件各事業が実費弁償により行われているといえるのか、実費弁償通達が適用されるのかとの点にあったものと考えられるところ、本件各付記理由にはこの点について何ら記載するものではなく、行政処分庁の判断過程を検証することができない。
a 控訴人は、昭和四七年の設立後事業を始めた当初から平成一九年までの長年にわたり、公益事業部門に区分して経理していた事業については、非課税であることを前提に税務申告を行ってきたこと。
b 処分行政庁担当者は、平成七年の税務調査時において、控訴人が、公益事業部門については収益事業に該当せず、非課税であることを前提に税務申告を行ってきたことについて、是正指導をしなかったこと。
c 処分行政庁担当者は、平成一九年四月の税務調査に際して、控訴人が受け取っていた委託料が実費弁償かどうか等を中心に調査を行い、調査後、行政処分庁担当者においても、控訴人に対し、いったんは、公益事業部門については非課税の方向である旨の見解を示していたこと。
オ まとめ
以上の認定判断を総合すると、本件各付記理由は、法人税法一三〇条の求める理由付記として不備があるものといわざるを得ない。
(3) 被控訴人の主張の検討
ア 被控訴人の主張
被控訴人は、本件各付記理由は法人税法一三〇条の求める要件を満たすものであるとして、次のとおり主張する。
(ア) 法の適用については結論のみを示せば足りる
更正の理由には、①更正の原因となる事実、②それへの法の適用、③結論の三つを含むところ、②に関連して生ずる法の解釈の問題や収入・支出の法的評価ないし法的判断の問題については、結論のみを示せば足り、結論に到達した理由ないし根拠を示す必要はないと解されている。
この点、最高裁昭和六〇年判決の事案においては、更正通知書の理由には、法的判断の結論のみが記載されていたのであって、判断過程、下位法規の検討結果の記載はもとより、適用条文についても具体的に記載されていなかったものであり、更正に付記すべき理由として、法規の適用や下位法規の検討結果を指摘することまでは求められていないというべきである。
(イ) 判断過程を逐一容易に検証することができる
本件各付記理由には、①「更正の原因となる事実」について、更正処分の対象として個々の業務について、契約等年月日、契約書名及び計上漏れとなっていた金額が記載され、更正の原因となる事実は全て網羅されており、③「結論」についても、「収益事業収入計上漏れ」として、「当該事業年度の所得金額に加算しました。」と記載されている。
そして、②「法の適用」についても、公益法人等は、収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課され(法人税法七条)、その収益事業の範囲については、同法二条一三号において定められているところ、本件各付記理由には、上記更正の原因となる事実について、法人税法二条一三号に該当する旨を明記していることから、更正理由の付記として欠けるところはない。
さらに、請負業であっても、例外的に非収益事業に該当するのは、法令の規定等により実費弁償的に行われている場合であるところ、本件各付記理由を見れば、「収益事業収入計上漏れ」の金額が、「収益事業に係る損金の計上漏れ」の金額を大幅に超過して、毎年度所得が発生し、実費弁償となっていないことは明白であり、処分行政庁が当該事業が収益事業に該当するかどうかの判断過程を逐一容易に検証することが可能であるから、下位法規の検討結果が理由に記載されていなくとも、更正の理由付記として欠けるところはない。
イ 検討
(ア) 法の適用については結論のみを示せば足りるのか
a 当裁判所の判断
被控訴人は、法の適用については結論のみを示せば足りるものである旨主張する。
しかしながら、
更正通知書に更正の理由を付記すべきものとされているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものであるところ、法の適用について課税庁と納税者との間で見解が対立する場合等においては、課税庁の恣意の抑制や納税者の不服申立ての便宜等の要請は、法の適用判断の過程について生ずるものと考えられる。
事実関係を示すことで法の適用関係が一義的に明らかである場合やこれを容易に推測することができる場合等、法の適用については結論のみを示せば足りる事案が存することは否定できないが、一般的に法の適用については常に結論のみを示せば足りるとする被控訴人の主張は採用しがたい。
b 最高裁昭和六〇年判決について
(a) 被控訴人の主張
この点に関し、被控訴人は、最高裁昭和六〇年判決の事案においては、法的判断の結論のみが記載され、判断過程や下位法規の検討結果、適用条文についても具体的に記載されていなかった旨主張する。
(b) 最高裁昭和六〇年判決の判示からの検討
① 最高裁昭和六〇年判決の判示
しかしながら、最高裁昭和六〇年判決は、次のとおり判示している(要旨)。
Ⅰ 帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においても、更正の根拠を課税庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示する必要がある。
Ⅱ 本件事案での更正理由の記載は、本件更正における上告人の判断過程を省略することなしに記載したものということができ、上告人としては、前記のような内容の記載をすることによって、本件更正による自己の判断過程を逐一検証することができるのであるから、その判断の慎重、合理性を確保するという点について欠けるところはなく、上記の程度の記載でも処分庁の恣意抑制という理由付記制度の趣旨目的を損なうことはないというべきである。
Ⅲ また、本件更正理由の記載を上記のような趣旨のものと解することが可能であるならば、本件更正の理由は、理由付記制度のもうひとつの目的である「不服目的の便宜」という面からの要請に対しても、必要な材料を提供するものということができるのであって、前記の内容を有する本件更正理由の記載は法人税法一三〇条二項の要求する更正理由の付記として欠けるところはない。
② 被控訴人の上記(a)主張の当否
このように、最高裁昭和六〇年判決は、付記理由が、課税庁の判断過程を省略することなしに記載しており、課税庁が自己の判断過程を逐一検証できることが、課税庁の恣意抑制という理由付記制度の趣旨目的に合するところであるとしていることから、帳簿記載を否認しない更正の理由付記においても、課税庁の判断過程すなわち下位法規の検討結果や適用条文についても記載することが必要との前提をとっていることが明らかである。
すなわち、最高裁昭和六〇年判決の事例は、被控訴人が主張するように、「理由付記の程度としては、法的判断の結論のみが記載され、判断過程や下位法規の検討結果、適用条文についても具体的に記載されていなかった」ものではなく、被控訴人の上記(a)の主張は採用できない。
③ 本件各付記理由の適否
そして、前記(2)エのとおり、本件各付記理由は、法適用に関しては、「法人税法二条一三号に規定する収益事業の収入に該当する」との結論を記載するにとどまり、法人税法施行令五条一項一〇号、同施行規則四条の三、実費弁償通達の各規定や、その適用関係についての判断過程の記載がすっぽりそのまま欠落しており、本件各事業がなぜ収益事業の収入に該当するのかについての法令等の適用関係や、何故そのように解釈するのかの判断過程についての記載が一切ない。
そのため、本件各付記理由では、本件各更正処分における処分行政庁の判断過程を省略することなしに記載したものということができないので、処分行政庁としては、本件各付記理由を記載することによって、本件各更正処分による自己の判断過程を逐一検証することができないし、その判断の慎重、合理性を確保するという点について欠けるところはないなどとは到底いえない。それゆえ、本件各付記理由として、「法人税法二条一三号に規定する収益事業の収入に該当する」との結論を記載しただけでは、処分行政庁の恣意抑制という理由付記制度の趣旨目的を損なうことはないと評価することもできない(最高裁昭和六〇年判決の上記①Ⅱの判示事項の検討結果)。
また、本件各付記理由として、上記のような結論が記載されているだけでは、理由付記制度のもうひとつの目的である「不服目的の便宜」という面からの要請に対しても、必要な材料を提供するものということもできない(最高裁昭和六〇年判決の上記①Ⅲの判示事項の検討結果)。
したがって、本件各付記理由は、更正の根拠を課税庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されているものと評価することができず(最高裁昭和六〇年判決の上記①Ⅰの判示事項の検討結果)、最高裁昭和六〇年判決の判示からも、本件各更正処分の付記理由の記載は法人税法一三〇条二項の要求する理由付記として不備があり、違法であるといわざるを得ない。
(c) 最高裁昭和六〇年判決の具体的な事案からの検討
① 具体的事案の内容
最高裁昭和六〇年判決の具体的な事案は、納税者が、工場に設置した冷房機が租税特別措置法(昭和四九年法律第一七号による改正前のもの)四五条の二所定の「機械」にあたり、その減価償却費の計算については、特別償却規定が適用されるとの見解の下に、その減価償却費を算定して損金に計上したのに対し、課税庁が、上記冷房機は法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の建物附属設備にすぎないから、上記特別償却規定は適用されないとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定をした事案である。
そして、その更正の理由には、「四八年六月取得の冷暖房設備について機械として特別償却されていますが、内容を検討した結果、建物附属設備と認められ、特別償却の適用はありませんので、次の計算による償却超過額は損金の額に算入されません。」との記載がある。
② 法律上及び事実上の根拠を具体的に示しているか
このように、上記事案における更正理由には適用条文の具体的な摘示こそないものの、上記冷房機が法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の「建物附属設備」である「冷房設備」にあたり、したがって、これが特別償却規定の適用のある「機械」にあたるとは認められないから、上記冷房機の減価償却費は普通償却の限度において算定されるべきであるとする趣旨を記載したものと容易に理解することができ、課税庁がなにゆえ損金算入を否認したかについて、その法律上及び事実上の根拠を具体的に示しているものということができる。
もっとも、最高裁昭和六〇年判決は、上記更正理由の記載は、上記冷房機であるゆえに「機械」にあたらないとするかについて、判断の基礎となった具体的事実関係を明示してはいないが、冷房機についての一般的理解を前提として、上記冷房機が、上記「冷房設備」にあたることを認めた趣旨を記載したものと解することができ、上記更正における課税庁の判断課程を省略することなく記載したものということができると判示していることから、最高裁昭和六〇年判決自身が判断の基礎となった具体的事実関係を納税者が理解できると解しているものである。
したがって、最高裁昭和六〇年判決について、被控訴人が上記(a)で主張するように、法的判断の結論のみを記載することを是認した判決と解することはできない。
(イ) 判断過程を逐一容易に検証することができるか
さらに、被控訴人は、本件各付記理由を見れば、「収益事業収入計上漏れ」の金額が「収益事業に係る損金の計上漏れ」の金額を大幅に超過して、本件各事業年度に所得が発生し、実費弁償となっていないことは明白であり、更正処分庁の判断過程を逐一容易に検証することができる旨主張する。
しかしながら、本件各付記理由の「収益事業収入計上漏れ」、「収益事業に係る損金の計上漏れ」の記載は、本件各事業が収益事業に該当するとの判断を前提として、その所得金額ひいては税額を算出する判断過程を記載したものであって、本件各事業が収益事業に該当するかについてや、実費弁償となっているかについての判断過程を記載したものとは解されない。
本件各付記理由の上記記載によって、実費弁償となっていないとする処分行政庁の判断過程を検証することが可能であるとは認めがたいところであるし、処分行政庁の判断過程が控訴人に示されたとみることは困難である。
(ウ) まとめ
以上のとおり、被控訴人の上記アの各主張は、いずれも採用することができず、本件各付記理由について不備があるとする上記(2)の当裁判所の判断を左右するものではない。
二 本件各更正処分等の違法性の検討
上記検討のとおり、本件各付記理由は、法人税法一三〇条二項の求める理由付記として不備があり、違法であるといわざるを得ず、その余の争点につき判断するまでもなく、本件各更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分はいずれも取消しを免れない。
第四 結論
以上のとおりであるから、本件各更正処分等はいずれも取消しを免れないものであり、控訴人の請求は理由がある。
よって、これと結論を異にする原判決を取り消し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 神山隆一 内山梨枝子)