無利息融資

 

 

 法人税額更正決定取消等請求控訴事件、大阪高等裁判所判決/昭和47年(行コ)第42号、判決 昭和53年3月30日、高等裁判所民事判例集31巻1号63頁

 

 

 

 

 

 

【判決要旨】

 

 

 法人税法上の同族会社の関係にある親会社が子会社に対し、その事業達成を援助する目的で、期間を三ヵ年に限り400万円を限度として無利息で融資する契約を締結した場合において、その融資金額の利息相当額につき寄付金と認定するときは、その利息相当額は年六分である。

 

 

 

 

 

 

 

 

理   由

 

  

一 次の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

 

(一) 被控訴人は、昭和二六年七月三日織物、繊維製品、雑貨の売買及び貿易を目的として資本金一〇〇万円で設立された株式会社であり、昭和四〇年一一月三〇日現在その資本金は一九〇〇万円である。東洋化成は、昭和三七年一一月一日に繊維、化成品の製造並びに販売を目的として資本金五〇〇万円で設立された株式会社である。東洋化成の昭和四〇年一一月三〇日現在における資本金は二〇〇〇万円であるが、その同日現在の発行済株式四万株のうち、一万六〇二八株を被控訴人が保有しており、被控訴人と東洋化成とはいわゆる親会社、子会社の関係にあつて、ともに法人税法上の同族会社である。

 

(ニ) 被控訴人は、昭和三七年一二月一日東洋化成に対し、その事業達成を援助する目的で期間を三か年間に限り、四〇〇〇万円を限度として無利息で融資する旨の契約を締結した。そして、右契約に基づく本件第一、第二事業年度における融資状況は、その各月末現在における融資残額をもつて表示すると別表(一)《略》記載のとおりになる。

 

(三) 控訴人は、被控訴人の昭和三八年一二月一日から昭和三九年一一月三〇日までの事業年度(本件第一事業年度)の法人税額の確定申告に対し、昭和四〇年六月三〇日付で更正処分をし(同年三月三一日付更正決定を減額再更正したもの。本件第一処分)、課税所得金額を六三一万五三二九円と更正し、更に被控訴人の昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度(本件第二事業年度)の法人税額の確定申告に対しても、昭和四一年六月三〇日付で更正処分(本件第二処分)をし、課税所得金額を四〇九万八六四七円と更正した。

 

(四) 本件第一、第二処分は、被控訴人が東洋化成に無利息融資したことにつき、その利息相当分を寄付金と認定し、寄付金損金不算入額として、本件第一処分が第一事業年度の所得金額に二〇六万一〇一三円、本件第二処分が第二事業年度の所得金額に二五八万二一三四円を各加算計上してしたものである。

 

(五) 被控訴人は、昭和四〇年四月一七日付で前記同年三月三一日付更正決定に対し、控訴人に異議申立をしたところ、同年六月三〇日付で棄却されたので、同年七月二〇付で大阪国税局長に対し審査請求したがこれも同年一一月九日付で棄却された。また、本件第二処分についても、昭和四一年七月一八日付で控訴人に異議申立をしたところ、同年一〇月一三日付で棄却されたので、同年一一月一二日付で国税局長に対し審査請求したが、これも昭和四二年二月二三日付で棄却された。

 

 

二 そこで、本件第一、第二処分により、本件無利息融資における利息相当額につき、これを寄付金と認定し、その寄付金損金不算入額に対して課税したことの適否について判断する。

 

 H法人税法は、各事業年度の所得を法人税の課税の対象とし(法五条)、右所得の金額は「当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする」(法二二条一項)と定めている。そして、当該事業年度の益金に算入すべきものとして、「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」を挙げている(法二二条二項)が、それは、私法上有効に成立した法律行為の結果として生じたものであるか否かにかかわらず、また、金銭の型態をとつているかその他の経済的利益の形をとつているかの別なく、資本等取引以外において資産の増加の原因となるべき一切の取引によつて生じた収益の額を益金に算入すべきものとする趣旨と解される。

 

 そして、資産の無償譲渡、役務の無償提供は、実質的にみた場合、資産の有償譲渡、役務の有償提供によつて得た代償を無償で給付したのと同じであるところから、担税力を示すものとみて、法二二条二項はこれを収益発生事由として規定したものと考えられる。

 

 

(ニ) 金銭の無利息貸付がなされた場合、貸主はもとより利息相当額の金銭あるいは利息債権を取得するわけではないから、それにもかかわらず貸主に利息相当額の収益があつたというためには、貸主に何らかの形でのこれに見合う経済的利益の享受があつたことが認識しうるのでなければならない。

 

 

 ところで、

 

 金銭(元本)は、企業内で利用されることによる生産力を有するものであるから、これを保有するものは、これについて生ずる通常の果実相当額の利益をも享受しているものといいうるところ、

 

 右金銭(元本)がこれを保有する企業の内部において利用されているかぎりにおいては、右果実相当額の利益は、右利用により高められた企業の全体の利益に包含されて独立の収益としては認識されないけれども、

 

 これを他人に貸付けた場合には、借主の方においてこれを利用しうる期間内における右果実相当額の利益を享受しうるに至るのであるから、

 

 ここに、

 

 貸主から借主への右利益の移転があつたものと考えられる。

 

 そして、金銭(元本)の貸付けにあたり、利息を徴するか否か、また、その利率をいかにするかは、私的自治に委ねられている事柄ではあるけれども、

 

 金銭(元本)を保有する者が、自らこれを利用することを必要としない場合、少くとも銀行等の金融機関に預金することによりその果実相当額の利益をその利息の限度で確保するという手段が存在することを考えれば、

 

 営利を目的とする法人にあつては、何らの合理的な経済目的も存しないのに、

 

 無償で右果実相当額の利益を他に移転するということは、通常ありえないことである。

 

 したがつて、

 

 営利法人が金銭(元本)を無利息の約定で他に貸付けた場合には、借主からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているか、

 

 あるいは、

 

 他に当該営利法人がこれを受けることなく右果実相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的その他の事情が存する場合でないかぎり、

 

 当該貸付がなされる場合にその当事者間で通常ありうべき利率による金銭相当額の経済的利益が借主に移転したものとして顕在化したといいうるのであり、

 

 右利率による金銭相当額の経済的利益が無償で借主に提供されたものとしてこれが当該法人の収益として認識されることになるのである。

 

 

 

(三) 法三七条五項の規定からみれば、寄付金とは、その名義のいかんを問わず、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与であつて、同項かつこ内所定の広告宣伝費、見本品費、交際費、接待費、福利厚生費等に当たるものを除くもののことである。寄付金が法人の収益を生み出すのに必要な費用といえるかどうかは、きわめて判定の困難な問題である。

 

 もしそれが法人の事業に関連を有しない場合は、明白に利益処分の性質をもつと解すべきであろう。しかし、法人がその支出した寄付金について損金経理をした場合、そのうちどれだけが費用の性質をもち、どれだけが利益処分の性質をもつかを客観的に判定することが至難であるところから、

 

 法は、行政的便宜及び公平の維持の観点から、一種のフィクションとして、統一的な損金算入限度額を設け、寄付金のうち、その範囲内の金額は費用として損金算入を認め、それを超える部分の金額は損金に算入されないものとしている(法三七条二項)。

 

 

 したがつて、

 

 経済的利益の無償の供与等に当たることが肯定されれば、それが法三七条五項かつこ内所定のものに該当しないかぎり、それが事業と関連を有し法人の収益を生み出すのに必要な費用といえる場合であつても、寄付金性を失うことはないというべきである。

 

 

(四) ところで、旧法は、各事業年度の所得を法人税の課税の対象とし(八条)、右所得の金額は「各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」(九条一項)と規定し、また、寄付金の損金不算入に関する規定をおいている(九条三項)けれども、旧法には、法二二条二項、三七条五項のような規定はなかつた。

 

 しかし、

 

 本件に適用されるべき法案に関する法の規定は、旧法の解釈上も妥当と考えられていたところを法文化したものであり、それによつて従来の法人税法の所得計算の変更が意図されているものではないと解されるのであつて、旧法の関係規定について、右に述べたところと別異に解釈すべき根拠は見出しがたいところである。

 

 

 

(五) 以上述べたところからすれば、本件無利息融資に係る右当事者間において通常ありうべき利率による利息相当額は、被控訴人が、東洋化成からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているか、

 

 あるいは、

 

 営利法人としてこれを受けることなく右利息相当額の利益を手離すことを首肯するに足る何らかの合理的な経済目的等のために東洋化成にこれを無償で供与したものであると認められないかぎり、

 

 寄付金として取扱われるべきものであり、それが法三七条五項かつこ内所定のものに該当しないかぎり、寄付金の損金不算入の限度で、本件第一、第二事業年度の益金として計上されるべきこととなる。

 

 

 《証拠》によれば、次の事実が認められる。

 

 

(1) 被控訴人は、織物、繊維製品等の販売を主たる営業内容とし、いわゆる問屋業を営んできたが、業界における機構改革や流通機構そのものの改革にそなえ、被控訴人が販売する商品を製造、販売する部門を設置する必要があると考え、当時の被控訴人代表者清水徳太郎が個人として有していた特許権等を生かした製造部門を柱とし、これに化学繊維の販売部門を併せたものを新設する構想をたてた。

 

 その方法として、被控訴人の内部にこれを設置するか、独立の会社を設立するかが検討されたが、一つには、新設部門については特許に関連した事業ということで発明協会の援助等を得て中小企業金融公庫から融資を得ることを企画したので、

 

 そのためにこれを別会社にする必要があつたことと、一つには、被控訴人のイメージとは異なるものとしたいということから、後者の方法を採用することとして、東洋化成が設立されるに至つた。

 

 

 

(2) 右中小企業金融公庫から融資を受けるという計画は、結局実現するに至らなかつたので、

 

 被控訴人は、東洋化成に対し、その事業達成を援助するため、前記一の(二)のように本件無利息融資を行なうこととした。

 

 その際、三か年経過後東洋化成が借入金の返済ができないときはその残額元本に対して年七分の割合による利息を支払う旨の約定がなされているが、

 

 三年間無利息とするについては、早急に独立自営の目標を達成すること以外、契約書には特段の理由を掲げていない。

 

 なお、右融資に関する契約の締結にあたり、被控訴人、東洋化成両社の取締役会は、両社の役員を兼務する者の東洋化成の報酬は完全独立自営の線に達するまで最低額に甘んじることを決議している。

 

 

 

(3) 東洋化成は、

 

(ア)昭和三七年一一月一日から同月三〇日までの設立当初の事業年度においては、投下資本の全てを土地と工場施設に費し、約一一万円の欠損を計上しているが、

 

(イ)昭和三七年一二月一日から昭和三八年一一月三〇日までの事業年度においては、住友銀行、滋賀銀行からの借入金期末残高一九四〇万円、未経過利息を含めてその支払利息八一万九九六二円を計上し、被控訴人と東洋化成両社の役員を兼務する者に対して合計九二万円の役員報酬を支払い、一二九万円余りの公表利益を計上し、その利益処分として年一〇パーセントの利益配当を行つており、なお、

 

(ウ)以後、昭和三八年一二月一日から昭和三九年一一月三〇日までの事業年度においては五〇〇万円の欠損を計上しているが、昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度においては一九五万円の、これに続く四事業年度においても、順次、二三五万円、一二八万円、一四八万円、二七七万円の利益を計上しており、右六事業年度のうち当初の四事業年度においては利益配当はしていないが、後の二事業年度においては、それぞれ五パーセントと一〇パーセントの利益配当を行なつており、右六事業年度のいずれにおいても、被控訴人と東洋化成両社の役員を兼務する者に対して相当額の役員報酬を支払つている。

 

 

(4) 被控訴人は、本件融資契約を締結した日を含む昭和三七年一二月一日から昭和三八年一一月三〇日までの事業年度において、かなりの借入れがあり、その手形割引を含む期末現在における借入金残高総額一億四七六六万六三七一円、これに対する支払利息(未経過利息、割引料を含む。)総額一三五九万九三七七円を計上している。

 

 本件無利息融資の資金は、自己資金及び銀行借入れによつてまかなわれているが、前者は被控訴人の受取手形を割引いてまかなつたものであり、

 

 いずれにせよ、利息は被控訴人が負担していたものである。

 

 被控訴人は、本件第一事業年度においては三〇五万円、本件第二事業年度においては一一〇万円の純利益があつたにとどまるとしているが、これに先立つ三事業年度においては、順次、一二一六万円、一三〇一万円、一五九一万円の純利益があつたとしており、なお、本件第二事業年度に続く事業年度には六六七万余円の欠損があつたが、その後の二事業年度には、順次五七五万円、四二八万円の純利益があつたとしている。

 

 もつとも、右純利益の点については、その間の景気の変動が大きく影響していることがうかがわれ、本件無利息融資をしたこととの因果関係は必ずしも明らかでない。

 

 

(5) 東洋化成設立当初から本件第二事業年度にいたる間の被控訴人、東洋化成両社の役員は、代表取締役はともに清水徳太郎で、清水惣之助が両社の取締役、中村甚右衛門が両社の監査役であり、その他、被控訴人の取締役として清水基子(徳太郎の妻)、東洋化成の取締役として早崎了詳がいた。昭和三八年一一月三〇日現在の東洋化成の株主及び各株主の持株の金額は、別表

(四) 《略》記載のとおりである。被控訴人の株主は、右東洋化成の株主のうち早崎了詳を除く全員であり、清水徳太郎の親族においてその大部分を保有している。

 

 

(6) 東洋化成の原料の仕入れは、金額からみて、被控訴人からの分と、他からの分とが、ほぼ半々であり、東洋化成の販売は、被控訴人をとおすものが東洋化成の直売を若干上まわる程度である。なお、清水徳太郎は、原審において被控訴人代表者本人として、東洋化成を設立したことにより被控訴人の利益が昭和四〇年頃までに大して増えたわけではないが、製造部門が傍系会社として存在するということで百貨店、スーパー等大きな取引先が開けてきたことが換算できない利益である旨、供述している。

 

 右認定に反する被控訴人代表者清水徳太郎本人の供述は他の証拠との対比において措信することができず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

 

(七) ところで、被控訴人は、本件第一、第二事業年度において、認定利息相当額を上まわる課税済み利益を東洋化成から取得していた、と主張する。

 

 

しかし、

 

 

(1) 商品の販売により利益を得るということは、一般商取引として当然のことであり、単にそれだけのことでは右の利益が本件無利息融資によつて与えた経済的利益と対価的意義を有するものと認めることはできない。

 

(2) のみならず、前記《証拠》によれば、被控訴人は、

 

(ア)本件第一事業年度において、被控訴人が東洋化成に売却したと主張する数量とほぼ匹敵する数量のパネロンを、別表囚《略》の5欄記載の仕入価額(それは、被控訴人が、他から買入れたパネロンの東洋化成への売却価額として自認する同表2欄の価額を、一メートル当り一円ずつ上まわるものである。)で、東洋化成から仕入れており、(イ)本件第二事業年度において、二六万五〇〇〇メートル余のパネロンを東洋化成から仕入れているが、その仕入価額は、昭和四〇年五月までは別表(六)の(5)欄記載の各仕入価額と同額であり、同年六月以降は右各価額を各一二円下まわるものとなつていること、が認められる。

 

 仮に被控訴人主張どおりの被控訴人から東洋化成へのパネロン売却の事実があつたとして、

 

 右認定の事実を併せて考えた場合、被控訴人と東洋化成との間のパネロンの取引は容易に理解しがたい(売つたものと買つたものとでパネロンが異質不等のものであるとの主張立証はない。)ところであり、疑えば、昭和四〇年五月までは、他から仕入れたパネロンを、東洋化成に売つて買戻すという帳簿操作により、一メートル当り一円の利益を東洋化成に振替えたのではないかとも考えられないではないのであつて、少くとも、その間、東洋化成とのパネロンの取引により被控訴人が利益を得たものとは認めがたいところであるし、また、前認定のように、昭和四〇年六月以降は仕入価額が画一的にかなり大幅に引下げられており、このことと、それまでの取引関係から考えると、被控訴人が東洋化成に販売したと主張するパネロンの原価、売価もその時期に同様に下落しているものとみるのが妥当であろう。いずれにせよ、東洋化成とのパネロンの取引によつて被控訴人が利益を得たとの主張は、認めるに由ないところである。

 

 

(3) また、《証拠》によれば、被控訴人は、その主張のリベートによる利益を得ているかにうかがわれるけれども、

 

 他方、前記《証拠》によれば、

 

 被控訴人は、東洋化成から、本件第一事業年度においては三〇万メートルをこえるトラベロンを、本件第二事業年度においては二九万メートルをこえるトラベロンを、いずれも別表(五)《略》の(2)欄記載の各価額で買受けている事実が明らかであり、右買受けた数量が被控訴人主張のリベートにかかわるトラベロンの取引数量とほぼ匹敵する(右両トラベロンが異質不等のものであるとの主張立証はない。)ことから考えれば、

 

 被控訴人は控訴人主張のように、東洋化成に売つたトラベロンを自ら買戻し、それによつて一メートル当り一〇円の利益を東洋化成に振替えているのではないかと疑われるのであつて、少くとも、東洋化成とのトラベロンの取引によつて被控訴人が利益を得たとの主張は、認めるに由ないところである

 

 

 

(4) 次に、前記《証拠》によれば、いくつかの誤記と思われるものを除き、おおむね被控訴人が東洋化成から商品を格安に仕入れたことにより得た利益を計上する基礎として主張する各売買取引があつたことが認められる。

 

 しかし、右被控訴人の主張の本件第二事業年度の格安仕入れによる利益中二二五万八四〇二円を占めるパネロンについては、同年度における被控訴人の東洋化成からのパネロンの仕入価額が、昭和四〇年五月までは別表囚の5欄記載の各価額であり(それは、その頃被控訴人が他から仕入れたパネロン一の原価として自認する同表の(1)欄記載の各価額を、一メートル当り五円ずつ上まわるものである。)、同年六月以降は右各価額を各一二円下まわるものであることは前認定のとおりであるが、なお、同時期に被控訴人の他からの仕入原価も下落したものとみるのが妥当であることも前示のとおりであるから、それが格安であつたと認めることはできない。

 

 その他の商品については、前記《証拠》にあらわれた取引の相手方、時期、数量、単価等からみて、マイアミハット等、控訴人主張のような疑問の存するものがあるが、少くとも、パット、スレープの類については、卸小売の別による差であるかもしれないという疑問は残るけれども、

 

一応、格安仕入れにあたると認めえないではない。

 

しかし、

 

被控訴人が自認するように、東洋化成から被控訴人への販売取引総額は、本件第一事業年度は六〇四四万二九〇七円、本件第二事業年度は九四六二万六九八〇円であるのに、

 

右格安仕入れにかかる具体的取引として主張されているものの合計額は、パネロンを除けば、本件第一事業年度分三五七万二三二二円、本件第二事業年度分一〇一万四六一七円にすぎないのであつて、

 

右取引総額において大きな割合を占めるものと思われるトラベロン、パネロンの各取引について前示のような疑問を残さざるをえない事情がうかがわれることをあわせて考えれば、

 

特に明示の約定により本件無利息融資と関連づけられているわけでもない僅少な部分の取引においてある程度の格安仕入れの事実があつたとしても、その故に東洋化成からの買取引によつて被控訴人にその主張のような利益が生じたものと認めることはできないところである。

 

 

四 被控訴人が本件第一、第二事業年度において東洋化成との取引によりその主張のような利益をえたといいえないことは、右(七)において検討したとおりである。

 

 また、右(六)の認定事実からすれば、被控訴人としては、自社の一部門として設置する方法もあつたのに、あえて別人格たる東洋化成を設立したのであり(同(1)の事実)、

 

東洋化成は、本来、当然利息を支払わなければならない中小企業金融公庫からの融資を見込んで設立された(同(1)の事実)のであつて、

 

本件無利息融資も、その速かな独立自営の達成ということ以上の明示の目的を帯有させられたものではない(同(2)の事実)ところ、

 

東洋化成は、設立の当初から融資に対する利息の支払ができないような資産状態であつたとはいえない(同(3)の事実)のに、被控訴人としては、あえて利息の自己負担において本件無利息融資をした(同(4)の事実)のである。

 

 

 

 もとより、

 

 

子会社たる東洋化成が利益をあげ、その取引高が増大すれば、親会社たる被控訴人にそれによる経済的利益が見込まれることは事実であり、

 

その他、右(六)の(6)の被控訴人代表者本人の供述にあらわれたような利益も考えられないではないから、

 

本件無利息融資により、東洋化成が、それがなかつた場合に比べてより速かにその事業を独立自営しうるようになつたとすれば、

 

それが、短縮された期間相当分だけ、右のような被控訴人の利益の増大につながつたといいえないではない。

 

 

しかし、

 

 

右に述べた事情からすれば、本件無利息融資が東洋化成の事業達成のために必要であつたとは認めがたい。

 

 

のみならず、さきに一の(一)、二の(六)の(5)(6)で認定した東洋化成の株主の持株の割合、

 

東洋化成と被控訴人との間の取引量の東洋化成の全取引量に対する割合にかんがみれば、東洋化成が利益をあげても、その約半分乃至はそれ以上は被控訴人に帰属させるに由ないものであり、その取引高の増大が全面的に被控訴人との取引高の増大につながるわけでもないのである。

 

 

結局、本件無利息融資により、被控訴人に東洋化成からのある程度の右のような経済的利益が見込まれるとしても、それは、極めて間接的かつ漠然としたものであるにすぎないのみならず、被控訴人は、右融資により生ずべきその種の利益の全てを自己に帰属させることもできないのであつて、それだけでは、営利法人が無利息融資の代償とするに足ると評価すべき程のものであるとは認めがたいところである。

 

 

そして、他に、本件無利息融資をしたことにより被控訴人が何らかの利益を得たことをうかがわせるような事情は見当らない。

 

 

 以上、被控訴人が問うよう化成から本件無利息有しによる利息相当額の利益と対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているとは到底認めがたく、また、営利法人である被控訴人が本件無利益融資により無償でその利息相当額の利益を手離すことを首肯させるに足る合理的理由も見出しがたいところである。

 

 

 

 そして、

 

 

本件無利益有しに係る利息相当額の利益の供与が宝三七条五項かつこ内所定のものに該当するとは解しえないから、控訴人が本件第一、第二処分においてこれをその過附近不算入の限度で本件第一、第二事業年度の益金として計上すべきものとしたこと自体を、違法ということはできない。

 

 

 

 

 

 

 

三 次に、本件第一、第二処分における寄附金とされる利息相当額とその損金不算入の計算の適否について検討する。

 

(一) 公租には、本件において寄附金とされる利息相当額区については、(1)その有し、返済の出入り回数が多く、また、その金額が大小さまざまであるため、その融資額ごとに適正な利息相当額を計算することは複雑困難であるばかりでなく、その実益が少ないので、最も合理的な計算方法として、別表(一)記載の各月末現在における有し残額を合計した金額を一二か月で除し、被控訴人の東洋化成に対する本件各係争事業年度中における各月末現在の平均融資残額を算出のうえ、(2)これに通常借入れに必要な利率と考えられる年一〇パーセントを乗じて、(3)本件第一事業年度の利息相当額を二一四万一七三九円、本件第二事業年度の利息相当額を二六五万四四六〇円と算出した、と説明する。

 

 

ところで、

 

通常、金銭消費貸借において当該当事者間において利息の割合を定めるにあたつては、貸借の理由、貸主と借主との関係、貸主の貸付資金捻出の手段、借主の借金を必要とする度合等、種々の要素が働くものであるから、

 

控訴人のいうように年一〇パーセントをもつて直ちに当該無利息貸付に係る通常のありうべき利率であるとすることはできない。

 

 

本件無利息融資の場合、その資金の関係はさきに二の(六)の(4)で認定したとおりであるが、それ以上に、各融資についての個別的な資金手当の関係は明らかでなく、

 

したがつてまた、

 

それを得るために被控訴人がどの程度の利息を負担したのかその具体的数額も明らかではない(《証拠》によれば、被控訴人は、相当額の預金を有していたところから、一部、通常の銀行借入れよりかなり低い金利で借入れていたものもあるようにうかがわれる。)。

 

のみならず、

 

営利法人が事業を営む上において銀行より長期、短期の資金を借入れ、一方において銀行に対し定期、当座、普通の各種預金をなし、それらはそれぞれ固有の必要に基づいてなされるものであつて単純ではないから、被控訴人において銀行借入れ金がある以上、その一部は常に東洋化成への貸付けのためになされたものであり、いわば東洋化成の肩代り借入れであるとみなすわけにはいかない。

 

 

したがつて、

 

被控訴人の銀行借入れ利息の利率をもつて、直ちに被訴人の東洋化成に対する本件融資のありうべき利率とすることはできない。

 

 

むしろ被控訴人と東洋化成との間には、前認定二の(六)の(1)(2)及び(5)(6)の事実が介在していることにかんがみれば、営利法人の行動の経済的合理性という観点から考えても、なお、金融を業とする銀行が企業に対し融資を行う際に取得する金利そのままを要求しうるとは限らない。

 

金融を業としない者が縁故の深い者に対してなす金銭の貸付けにおいては、金融業視野のような姿勢はとてもとれないのが通常であるからである。

 

 

しかしながら、

 

 

被控訴人としては、東洋化成に貸付けた資金をもしその貸付けを行なわないとすればこた利殖を計り得たのあるから、被控訴人としては銀行預金利息程度のものは東洋化成に対して要求してもおかしくなく、東洋化成としてもその程度のものは支払わなければ被控訴人に対し申し訳がないということがいえよう。

 

 

そこで、

 

銀行の定期預金利息の利率が一応の基準として浮んでくる(《証拠》によると、本件無利息融資において三年経過後の利息の利率を年七分と定めたのは、期間二年の定期預金の利息が当時六分位であつたからであることが認められる。

 

 

そうであれば、

 

被控訴人と東洋化成間において、本件の貸付に当り、被控訴人が銀行に定期預金をすることによつて得べかりし利息が具体的に顧慮のノー対象となつたことになる。)。

 

 

しかし、

 

 

このように考えても、もともと当事者間で無利息と定められた消費貸借につき、合理的なありうべき利息の利率を探究しようとするのであるから、漠然とした基準しか見出せないのは殊の性質上やむを得ない。

 

 

このような場合、証人の行為につき約定がない場合に適用される商事法定利率の年六分が、それがたまたま前記の銀行の期間二年もしくは三年定期預金利息の利率と近似していることでもあり、妥当であると思われる。

 

 

 

 以上の次第であるから、本件無利息融資に係る通常ありうべき利率は年六分であると認めるのが相当であり、これをこえる利率により利息相当額を算出した本件第一、第二処分は、その限度において違法であるといわなければならず、また、右違法な部分を、法一三二条(旧法三〇条)の適用によつて維持する余地はない。

 

 

(ニ) したがつて、寄付金とされるべき利息相当額は、本件第一事業年度は一二八万五〇四三円、本件第二事業年度は一五九万二六七九円となる。

 

第一事業年度につき、

 257,008,714×12分の1×100分の6=1,285,043

 

第二事業年度につき、

 318,535,810×12分の6=1,592,679

 

     (いずれも、円未満切捨て)

 

 

(三) 寄付金の損金不算入額は、別表(ニ)《略》の番号1乃至20、別表国《略》の1乃至13の各事項、金額については、被控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなした引え、本件第一事業年度については旧法九条三項、同法施行規則(昭和二二年勅令-一号)七条の規定に基づき、本件第二事業年度については法三七条二項、同法施行令(昭和四〇年政令六七号)七三条の規定に基づき、各計算すると、本件第一事業年度は一二一万五〇二六円、本件第二事業年度は一五三万三六二五円とすべきこととなる。

 

 

第一事業年度につき、

 1,285,043-{19,000,000×1000分の2.5+

(2,416,356+1,285,043)×100分の2.5}×2分の1=1,215,026

 

 

第二事業年度につき、

 1,592,679-{19,000,000×1000分の2.5+(1,231,657+1,592,679)×100分の2.5}×2分の1=1,533,625

 

 

 

 

四 当審における控訴人の主張五の計算における(2)(3)(4)(7)の各事項についての本件第一処分に関する金額及び別表(ニ)の番号24の事項の金額については、被控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなしたうえ、昭和四二年法律第二四号による改正前の租税特別措置法五三条にしたがつて、本件第一事業年度の課税所得金額につき、右寄付金の損金不算入額が取消された場合の価格変動準備金の繰入超過額を計算すると、本件第一処分に含まれている超過額より一二万]八二二円増加することとなる。

 

 3,970,223+2,416,356+1,215,026+206,185=7,807,790

 3,970,223-(19,985,548-7,807,790)×19,985,548分の2,884,033=2,216,626

 2,338,448-2,216,626=121,822

 

 したがつて、本件第一事業年度における課税所得金額は五五九万一一六四円、本件第二事業年度における課税所得金額は三〇五万〇一三八円となるべきである。

 

 6,315,329-(2,061,013-1,215,026)+121,822=5,591,1644,098,647-(2,582,134-1,533,625)=3,050,138

 

 

 

五 以上、本件第一処分のうち課税所得金額五五九万一一六四円を超える部分、及び、本件第二処分のうち課税所得金額三〇五万〇一三八円を超える部分は、いずれも違法なものとしてこれを取消すべきであり、被控訴人の本訴請求は、右各部分の取消を求める限度で認容すべく、その余は失当として棄却すべきものであるので、これと異なる原判決を右の趣旨に変更(裁判長判事 坂井芳雄 判事 富澤 達・下郡山信夫)

 

   【主文は出典に掲載されておりません。】