非上場株式の評価(1)

 

 

 

 

 所得税更正処分取消請求事件、 東京地方裁判所/平成9年(行ウ)第226号、平成10年(行ウ)第122号 、判決 平成11年11月30日、 税務訴訟資料245号576頁について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 原告は,被告税務署長が所得税についてした更正のうち,申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定の各取消しを求めている訴えにおいて,株式の譲渡等に係る譲渡収入金額の認定に誤りがあると主張した。判決は,取引相場のない株式については,会社の純資産がその主要な価格の形成要因であることからすれば、純資産価額方式によることが合理的であるとして,処分を適法と認めた。 

 

 

 

 

 

主   文

 

  一 原告らの請求をいずれも棄却する。

  二 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

        

 

 

事実及び理由

 

 

第一 請求

 

 一 被告雪谷税務署長が平成六年三月八日付けでしたAに係る平成二年分所得税の更正のうち、分離課税の株式等の譲渡所得金額二四億七八九八万三三〇〇円、納付すべき税額七億六三七七万四九〇〇円を超える部分及び同日付けでした右更正に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも平成九年五月二六日付けの裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 

二 被告神奈川税務署長が平成六年三月九日付けでした原告Bに係る平成二年分所得税の更正のうち、分離課税の株式等の譲渡所得金額二五〇四万〇三〇〇円、納付すべき税額金五六七万九一〇〇円を超える部分及び同日付けでした右更正に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも平成九年五月二六日付けの裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 

 

 第二 事案の概要

  本件のうち、

 

①平成九年(行ウ)第二二六号事件は、平成三年二月二日に死亡したA(以下「亡A」という。)の相続人である原告ら四名が、被告雪谷税務署長が亡Aに係る平成二年分所得税について平成六年三月八日にした更正のうち、原告らの申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、いずれも平成九年五月二六日付け裁決で一部取り消された後のもの)の各取消しを求めている訴えであり、

 

②平成一〇年(行ウ)第一二二号事件は、原告Bが、被告神奈川税務署長が同原告自身の平成二年分所得税について、平成六年三月九日にした更正のうち、同原告が平成三年三月二五日にした修正申告の申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、いずれも平成九年五月二六日付け裁決で一部取り消された後のもの)の各取消しを求めている訴えであるが、いずれも、原告らは、右各処分における亡A又は原告Bがした株式の譲渡等に係る譲渡収入金額の認定に誤りがあると主張して、右各取消しを求めている事案である。

 

 

一 法令の定め等

 

1 所得税法は、所得金額の計算の通則として、収入金額については、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」(同法三六条一項)、「前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。」(同条二項)と定めている。

 

2 また、同法は、贈与等の場合の譲渡所得等の特例を設け、その一つとして、法人に対して著しく低額な譲渡が行われた場合につき、譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額で譲渡所得の基因となる資産の譲渡があった場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時の価額に相当する金額により、右資産の譲渡があったものとみなすことと定めている(同法五九条一項二号、同法施行令一六九条)。

 

3 課税実務上の財産の評価の一般的な基準を定めた所得税基本通達(昭和四五年七月一日付直審(所)三〇)は、所得税法施行令八四条一項に規定する発行法人から有利な発行価額による新株等を取得する権利を与えられた場合の払込みに係る期日における新株等の価額の算定方法のうち、当該新株等又は当該新株等に係る旧株等が証券取引所に上場されておらず、これらの株式等について気配相場もないときについては、

 

① 最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額の売買実例がある場合には、その価額により(所得税基本通達二三~三五共1九(以下これを「本件通達」という。)の(4)イ)、

 

② 売買実例のないものでも、その株式等を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式等の価額がある場合には、その価額に比準して推定した価額により(同通達の(4)ロ)、

 

③ ①及び②のいずれにも該当しない場合には、当該払込みに係る期日又は同日に最も近い日におけるその株式等を発行する法人の一株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額による(同通達の(4)ハ)

としている。

 

4 そして、本件通達は、所得税法三六条に規定する収入金額を算定する上での株式の価額算定方法を示した唯一の通達であることから、課税実務上、所得税法五九条一項二号に規定するみなし譲渡に該当することとされた場合の株式の譲渡の時における価額の算定にも準用されている。

  

 

 

 

二 前提となる事実(争いがない事実)

 

1 本件訴訟に至る経緯

 

(一)(1)原告らは、平成三年三月一五日、所得税法一二四条(確定申告書を提出すべき者等が死亡した場合の確定申告)及び所得税法施行令二六三条(死亡の場合の確定申告の特例)の規定に基づき、他の共同相続人訴外Cと共に、亡Aの平成二年分所得税の確定申告を行った。

 

(2)これに対し、被告雪谷税務署長は、平成六年三月八日付けで、別表1記載のとおりの更正及び過少申告加算税賦課決定をした(以下、右の更正を「本件更正処分1」、過少申告加算税の賦課決定を「本件賦課決定処分1」といい、これらを併せて「本件課税処分1」という。)。

 

(3)本件課税処分1に関する原告らの不服申立ての経緯は、別表1記載のとおりである。

 

 

(二)(1)原告Bは、平成三年三月一五日、同人の平成二年分の所得税の確定申告を行い、さらに、平成三年三月二五日、修正申告を行った。

 

(2)被告神奈川税務署長は、これに対し、平成六年三月九日付けで、別表2記載のとおりの更正及び過少申告加算税の賦課決定を行った(以下、右の更正を「本件更正処分2」、過少申告加算税の賦課決定を「本件賦課決定処分2」といい、これらを併せて「本件課税処分2」といい、「本件課税処分1」及び「本件課税処分2」を併せて「本件課税処分」という。)。

 

(3)本件課税処分2に関する原告Bの不服申立ての経緯は、別表2記載の、とおりである。

 

 

 

2 株式譲渡及び現物出資の経緯

 

 

 

(一)亡Aによる株式譲渡及び現物出資

 

(1)亡Aは、平成元年三月三〇日、有限会社アイエヌビイ(以下「アイエヌビイ」という。)の設立に際して、同社に対して株式会社稲葉製作所(以下「本件会社」という。)の株式一一万八八〇〇株の現物出資をするとともに現金四九五万円を払い込み、右現物出資及び現金の払い込みに対し、アイエヌビイの出資五九四〇口及び四九五〇口を各取得した。

 

(2)亡Aは、平成二年七月二三日、アイエヌビイに対し、本件会社の株式一二六万二二五〇株(以下「本件株式1」という。)を一株当たり二〇二〇円、譲渡代金二五億四九七四万五〇〇〇円で譲渡した。

 

  同日、亡Aは、アイエヌビイに対し、アイエヌビイの増資払込金として二五億五四六九万五〇〇〇円を払い込み、アイエヌビイの出資九万九〇〇〇口を取得した。

 

 (3)亡Aは、同年九月一九日、有限会社イナバデリバリィ(以下「イナバデリバリィ」という。)の設立に際して、アイエヌビイの出資一〇万八九〇〇口(以下「本件出資1」といい、本件株式1と併せて「本件株式等1」という。)を現物出資(以下「本件現物出資1」という。)するとともに現金九九〇万円を払い込み、イナバデリバリィの出資一〇万八九〇〇口及び九九〇〇口を各取得した。

 

 

(二)原告Bによる株式譲渡及び現物出資

 

(1)原告Bは、平成元年三月三〇日、アイエヌビイの設立に際して、本件会社の株式一二〇〇株の現物出資をするとともに現金五万円を払い込み、右現物出資及び現金の払い込みに対し、アイエヌビイの出資六〇口及び五〇口を各取得した。

 

(2)原告Bは、平成二年七月二三日、アイエヌビイに対し、本件会社の株式一万二七五〇株(以下「本件株式2」といい、本件株式1と併せて「本件株式」という。)を一株当たり二〇二〇円、譲渡代金二五七五万五〇〇〇円で譲渡した。

  同日、原告Bは、アイエヌビイに対し、増資払込金として二五八〇万五〇〇〇円を払い込み、アイエヌビイの出資一〇〇〇口を取得した。

 

(3)原告Bは、同年九月一九日、イナバデリバリィの設立に際して、アイエヌビイの出資一一〇〇口(以下「本件出資2」といい、本件出資1と併せて「本件出資」、本件株式2と併せて「本件株式等2」という。)を現物出資(以下「本件現物出資2」といい、本件現物出資1と併せて「本件現物出資」という。)するとともに現金一〇万円を払い込み、イナバデリバリィの出資一一〇〇口及び一〇〇口を各取得した。

 

 

 

 

 三 本件課税処分の根拠(被告らの主張)

 

 1 本件課税処分1の根拠

 

  被告雪谷税務署長が主張する本件課税処分1の根拠は次のとおりである。

 

  なお、以下の本件課税処分1の根拠事実のうち、当事者間に争いがあるのは、本件会社の株式の価額の評価及びそれを前提とするイナバデリバリィの出資の価額の評価の各点のみであり、その余の点(総所得金額及びその内訳の各金額、分離課税の長期譲渡所得金額、分離課税の株式等の譲渡所得金額の内訳のうち、取得費中の本件出資1の取得費の金額及び譲渡に要した費用並びに納付すべき所得税額の内訳のうち、総所得金額に対する税額、分離課税の長期譲渡所得金額に対する税額、配当控除額及び源泉徴収税額)については争いがない。

 

 

(一)本件更正処分1の根拠

 

  被告雪谷税務署長が本訴において主張する亡Aの平成二年分所得税の課税標準及び納付すべき税額は、次のとおりである。

 

 (1)総所得金額 八三四八万八三八九円

  その内訳は、次のアないしエのとおりである。

ア 不動産所得の金額   五九一万七五三〇円

イ 配当所得の金額   二九〇九万四五二〇円

ウ 給与所得の金額   四六〇二万九六四〇円

エ 雑所得の金額     一四四万六六九九円

 

(2)分離課税の長期譲渡所得金額 一〇億三二九四万五九九〇円

 

(3)分離課税の株式等の譲渡所得金額 一〇七億五九七五万一九二八円

 

  右金額は、次のアからイ及びウの合計金額を控除した金額である。

 

ア 譲渡収入金額 一四二億三七八七万八〇五〇円

 

  右金額は、次のⅠとⅡの金額の合計金額である。

 

Ⅰ 本件会社の株式の譲渡に係る譲渡収入金額

 

               七〇億六九八六万二二五〇円

 

 

  亡Aは、平成二年七月二三日に本件会社の株式一二六万二二五〇株(本件株式1)をアイエヌビイに対し一株当たり二〇二〇円で譲渡したものであるところ、後記のとおり、右譲渡の時(平成二年七月二三日)における本件株式の一株当たりの価額は、純資産価額方式によって算定すれば、別表3の1のとおり五六〇一円となるので、所得税法五九条一項二号及び同法施行令一六九条の規定により、本件株式1の譲渡に係る収入金額は、本件株式の一株当たりの時価五六〇一円に本件株式1の株式数一二六万二二五〇株を乗じて算出した金額である標記の額となる。

 

 

Ⅱ アイエヌビイの出資を現物出資したことに係る譲渡収入金額

 

               七一億六八〇一万五八〇〇円

 

  右金額は、亡Aが平成二年九月一九日にアイエヌビイの出資一〇万八九〇〇口(本件出資1)をイナバデリバリィに現物出資した際の譲渡収入金額であり、これにより取得したイナバデリバリィの一出資一〇万八九〇〇口の当該取得の時(平成二年九月一九日)における一口当たりの価額は、別表3の2ないし4のとおり六万五八二二円となるので、本件出資1の譲渡に係る収入金額は、右金額に取得口数一〇万八九〇〇口を乗じて算出した金額である。

 

イ 取得費 三四億六二五九万七九二二円

 

  右金額は、亡Aが本件株式等1を取得する除に要した費用であり、次のⅠとⅡの金額の合計金額である。

 

Ⅰ 本件株式1の取得費の金額 三億五三四九万三一一二円

 

  右金額は、本件株式1の譲渡に係る収入金額七〇億六九八六万二二五〇円の五パーセント相当額である(所得税基本通達三八-一六)。

 

Ⅱ 本件出資1の取得費の金額 三一億〇九一〇万四八一〇円

 

  右金額は、次の①ないし③の金額の合計金額三一億三七三六万九、四〇〇円に亡Aが取得したアイエヌビイの出資口数一〇万九八九〇口に占める本件出資口数一〇万八九〇〇口の割合を乗じて算出した金額である。

① 平成元年三月三〇日、現物出資により取得した五九四〇口の取得費の金額

 

                五億七七七二万四四〇〇円

 

  右金額は、平成元年三月三〇日、亡Aがアイエヌビイの設立に際して本件会社の株式一一万八八〇〇株をアイエヌビイに現物出資したことにより取得したアイエヌビイの出資の取得費であり、取得の時(平成元年三月三〇日)における本件会社の株式の一株当たりの価額四八六三円(別表3の5の一株当たりの純資産価額)に現物出資した一一万八八〇〇株を乗じて算出した金額である。

 

② 平成元年三月三〇日、現金払込みにより取得した四九五〇口の取得費の金額

 

                   四九五万〇〇〇〇円

 

  右金額は、平成元年三月三〇日、亡Aがアイエヌビイの設立に際して払い込んだ金額である。

 

③ 平成二年七月二三日、現金払込みにより取得した九万九〇〇〇口の取得費の金額

 

               二五億五四六九万五〇〇〇円

 

  右金額は、平成二年七月二三日、亡Aがアイエヌビイの増資に際して払い込んだ金額である。

 

ウ 譲渡に要した費用       一五五二万八二〇〇円

 

  右金額は、亡Aが本件株式1の譲渡及び本件現物出資1について課された有価証券取引税相当額である。

 

Ⅰ 本件株式1の譲渡に係る譲渡費用 七六四万九二〇〇円

 

Ⅱ 本件現物出資1に係る譲渡費用  七八七万九〇〇〇円

 

 

 

 (4)納付すべき所得税額  二四億一九九二万八五〇〇円

 

  右金額は、後記アないしウの合計金額二四億四五六八万〇九五〇円からエ及びオの金額を控除した金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

 

ア 総所得金額に対する税額    三七四九万四五〇〇円

 

  右金額は、亡Aの総所得の金額八三四八万八三八九円から所得控除の額の合計額六九万九三二〇円を控除した後の課税総所得金額八二七八万九〇〇〇円(通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、所得税法八九条一項(平成六年法律一〇九号による改正前のもの)の規定を適用して計算した金額である。

 

イ 分離課税の長期譲渡所得金額に対する税額

 

                二億五六二三万六二五〇円

 

  右金額は、亡Aの課税長期譲渡所得金額一〇億三二九四万五〇〇〇円(通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、租税特別措置法三一条一項(平成三年法律一六号による改正前のもの)の規定を適用して計算した金額である。

 

ウ 分離課税の株式等の譲渡所得金額に対する税額

 

               二一億五一九五万〇二〇〇円

 

  右金額は、亡Aの株式等に係る課税譲渡所得等の金額一〇七億五九七五万一〇〇〇円(通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、租税特別措置法三七条の一〇第一項(平成七年法律五五号による改正前のもの)の規定を適用して計算した金額である。

 

エ 配当控除額           一四五万四七二六円

 

  右金額は、所得税法九二条の規定に基づき所得税額から控除される金額である。

 

オ 源泉徴収税額         二四二九万七六三三円

 

  右金額は、亡Aが配当金、給与及び年金の支払を受けた際に源泉徴収された所得税額である。

 

 

 

 (二)本件賦課決定処分1の根拠

 

  原告らは、亡Aの平成二年分所得税に係る課税標準及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、また、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も存しない。

 

  そこで、過少申告加算税として、本件更正処分1により原告らが新たに納付すべきこととなった税額一六億五六一五万円(本件更正処分1による税額二四億一九九二万八五〇〇円から本件確定申告による税額七億六三七七万四九〇〇円を控除し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額一億六五六一万五〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき本件更正処分1により新たに納付すべきこととなった税額一六億五六一五万三六〇〇円のうち、期限内申告税額相当額七億八八〇七万二六二四円を超える部分の税額八億六八〇八万円(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額四三四〇万四〇〇〇円とを加えた金額二億〇九〇一万九〇〇〇円を賦課決定したものである。

 

 

 2 本件課税処分2の根拠

 

  被告神奈川税務署長が主張する本件課税処分2の根拠は以下のとおりである。

 

  なお、本件課税処分2の根拠のうち、当事者間に争いがあるのは、本件会社の株式の価額の評価及びそれを前提とするイナバデリバリィの出資の価額の評価の各点のみであり、その余の点(総所得金額及びその内訳の各金額、分離課税の株式等の譲渡所得金額の内訳のうち、取得費中の本件出資2の取得費の金額及び譲渡に要した費用並びに納付すべき所得税額の内訳のうち、総所得金額に対する税額、配当控除額及び源泉徴収税額)については争いがない。

 

 (一)本件更正処分2の根拠

 

  被告神奈川税務署長が本訴において主張する原告Bの平成二年分所得税の課税標準及び納付すべき税額は、次のとおりである。

 

 (1)総所得金額          二九三万八八〇五円

 

  右金額は、次のアとイの合計金額である。

 

ア 配当所得の金額         一二一万六一二〇円

 

イ 給与所得の金額        二〇七二万二六八五円

 

 (2)分離課税の株式等の譲渡所得金額 一億〇八六八万四五一四円

 

  右金額は、次のアからイ及びウの合計金額を控除した金額である。

 

ア 譲渡収入金額       一億四三八一万六九五〇円

 

  右金額は、次のⅠとⅡの金額の合計金額である。

 

Ⅰ 本件会社の株式の譲渡に係る譲渡収入金額

 

                  七一四一万二七五〇円

 

  原告Bは、平成二年七月二三日に本件会社の株式一万二七五〇株(本件株式2)をアイエヌビイに対し一株当たり二〇二〇円で譲渡したが、右譲渡の時(平成二年七月二三日)における本件株式の一株当たりの価額は前記のとおり五六〇一円となるので、所得税法五九条一項二号及び同法施行令一六九条の規定により、本件株式2の譲渡に係る収入金額は、本件株式の一株当たりの時価五六〇一円に本件株式2の株式数一万二七五〇株を乗じて算出した金額である標記の額となる。

 

Ⅱ アイエヌビイの出資を現物出資したことに係る譲渡収入金額

 

                  七二四〇万四二〇〇円

 

  右金額は、原告Bが平成二年九月一九日にアイエヌビイの出資一〇〇口(本件出資2)を有限会社イナバデリバリィに現物出資した際の譲渡収入金額であり、これにより取得したイナバデリバリィの出資一一〇〇口の当該取得の時(平成二年九月一九日)における一口当たりの前記の価額六万五八二二円に取得口数一一〇〇口を乗じて算出した金額である。

 

イ 取得費 三四九七万五七三六円

 

  右金額は、原告Bが本件株式等2を取得する際に要した費用であり、次のⅠとⅡの金額の合計金額である。

Ⅰ 本件株式2の取得費の金額 三五七万〇六三七円

 

  右金額は、本件株式2の譲渡に係る収入金額七一四一万二七五〇円の五パーセント相当額である(所得税基本通達三八-一六)。

 

Ⅱ 本件出資2の取得費の金額 三一四〇万五〇九九円

 

  右金額は、次の①ないし③の金額の合計金額三一六九万〇六〇〇円に原告Bが取得したアイエヌビイの出資口数一一一〇口に占める本件出資口数一一〇〇口の割合を乗じて算出した金額である。

 

① 平成元年三月三〇日、現物出資により取得した六〇口の取得費の金額

 

                   五八三万五六〇〇円

 

  右金額は、平成元年三月三〇日、原告Bがアイエヌビイの設立に際して本件会社の株式一二〇〇株をアイエヌビイに現物出資したことにより取得したアイエヌビイの出資の取得費であり、取得の時(平成元年三月三〇日)における本件会社の株式の一株当たりの価額四八六三円(別表3の5の一株当たりの純資産価額)に現物出資した一二〇〇株を乗じて算出した金額である。

 

② 平成元年三月三〇日、現金払込みにより取得した五〇口の取得費の金額

 

                     五万〇〇〇〇円

 

  右金額は、平成元年三月三〇日、原告Bがアイエヌビイの設立に際して払い込んだ金額である。

 

③ 平成二年七月二三日、現金払込みにより取得した一〇〇〇口の取得費の金額

 

                  二五八〇万五〇〇〇円

 

  右金額は、平成二年七月二三日、原告Bがアイエヌビイの増資に際して払い込んだ金額である。

 

ウ 譲渡に要した費用 一五万六七〇〇円

 

  右金額は、原告Bが本件株式2の譲渡及び本件現物出資2について課された有価証券取引税相当額である。

 

Ⅰ 本件株式2の譲渡に係る譲渡費用 七万七二〇〇円

 

Ⅱ 本件現物出資2に係る譲渡費用  七万九五〇〇円

 

 (3)納付すべき所得税額 二二四〇万七九〇〇円

 

  右金額は、後記ア及びイの合計金額二七五五万八〇〇〇円からウ及びエの金額を控除した金額(ただし、通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

 

ア 総所得金額に対する税額 五八二万一二〇〇円

 

  右金額は、原告Bの総所得の金額二一九三万八八〇五円から所得控除の額の合計額二六三万五六五四円を控除した後の課税総所得金額一九三〇万三〇〇〇円(通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未一満の端数を切り捨てた後のもの)に、所得税法八九条一項(平成六年法律一〇九号による改正前のもの)の規定を適用して計算した金額である。

 

イ 分離課税の株式等の譲渡所得金額に対する税額

 

                  二一七三万六八〇〇円

 

  右金額は、原告Bの株式等に係る課税譲渡所得の金額一億〇八六八万四〇〇〇円(通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、租税特別措置法三七条の一〇第一項(平成七年法律五五号による改正前のもの)の規定を適用して計算した金額である。

 

ウ 配当控除額 六万〇八〇六円

 

  右金額は、所得税法九二条の規定に基づき所得税額から控除される金額である。

 

エ 源泉徴収税額 五〇八万九二七二円

 

  右金額は、原告Bが配当金及び給与の支払を受けた際に源泉徴収された所得税額である。

 

 (二)本件賦課決定処分2の根拠

  原告Bは、原告Bの平成二年分の所得税に係る課税標準及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、また、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も存しない。

  そこで、過少申告加算税として、本件更正処分2により原告Bが新たに納付すべきこととなった税額一六七二万円(本件更正処分2による税額二二四〇万七九〇〇円から本件修正申告による税額五六七万九一〇〇円を控除し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額一六七万二〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき本件更正処分2により新たに納付すべきこととなった税額一六七二万八八〇〇円のうち、本件修正申告により納付すべき税額五七六万〇三七二円を超える部分の税額一〇九六万円(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額五四万八〇〇〇円とを加えた金額二二二万円を賦課決定したものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 四 当事者らの主張

 

 (被告らの主張)

 

 1 本件株式の譲渡等における所得税法の規定の適用

 (一)本件株式は、譲渡所得の基因となる資産であり、法人であるアイエヌビイに対して譲渡されており、その譲渡価額は一株当たり二〇二〇円であるところ、この金額が、本件株式の譲渡の時(平成二年七月二三日)における価額の二分の一に満たない場合には、本件株式の譲渡については所得税法五九条の規定が適用され、本件株式の譲渡の時における価額で本件株式の譲渡があったものとみなして、本件株式譲渡に係る譲渡収入金額を算定することとなる。

 

 (二)また、所得税法三六条一項は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」と定め、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、「経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする」旨規定していることから、同法三三条に規定する譲渡所得の基因となる資産を現物出資し、株式、出資等を取得した場合における譲渡収入金額は、当該現物出資により取得した株式、出資等の取得時の価額(時価)であると解される。

 

  したがって、本件現物出資に係る譲渡収入金額は、本件現物出資により取得したイナバデリバリィの出資の取得時における価額(時価)により算定することとなる。

 

 2 取引相場のない株式の時価算定

 

 (一)一般に財産の時価とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、いわゆる投売り価額、買い進み価額、取得原価及び処分価額とは異なるもので、主観的な要素を排除した客観的な交換価値を示す価額をいうものと解することができる。

 

 (二)取引相場のない株式等の時価については、公開市場で取引される適正な価額による売買実例が存在しておらず、また売買実例があっても、それは特定当事者間あるいは特別な事情の下で取引されるのが通常であるという実態があり、その株式等の価額を決定する要素として考えられる株式一株当たりの利益金額、配当金額、純資産価額、事業の種類、会社の規模、営業成績、資本系列及び経営者の手腕等は千差万別で、その株式等の経済的観念が必ずしも一様でないと認められることからすれば、その客観的な交換価値を把握することは、非常に困難であるというべきであるが、課税実務上は、取引相場のない株式等の価額については、本件通達に準じて算定しており、これによる算定方法は、次のとおり、合理性を有する適正なものである。

 

 (三)すなわち、本件通達の(4)イは、売買実例のあるものについて最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額によることとしているが、評価対象となる株式等を発行する法人(以下「評価法人」という。)の最近における適正な売買実例価額があれば、当該価額が評価法人の株式の価額を適正に反映しているものといえるから、右算定方法は合理的である。

 

 (四)また、本件通達の(4)ロは、適正と認められる価額による売買実例のない場合であっても、評価法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人(以下「類似法人」という。)の株式等の価額があるものについては、当該価額に比準して推定した価額によることとしているが、評価法人に最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額がない場合であっても、類似法人が存在し、かつ、類似法人に適正と認められる売買実例価額があるのであれば、当該価額に比準して推定した価額によることは、評価法人の株式の価額を適正に反映しているものと推定できるから、右算定方法(以下「類似法人比準方式」という。)は合理的である。

 

  ただし、事業実態が異なればその株価形成要素が異なるので、その異なる要素により形成された株価に比準して推定して株式の価額を算定しても、その価額には何ら意味がないから、右類似法人が存在するか否かについては、事業の種類、規模、収益の状況等のすべてが類似する法人が存在するか否かを検討し、その一点でも類似していない要素があれば、もはや類似法人とはいえないと解すべきである。

 

 (五)さらに、本件通達の(4)ハの純資産価額による算定とは、評価法人の財産価額から負債の額を控除した金額を株式数で除して一株当たりの価額を算定する方法であるが、この方式(以下「純資産価額方式」という。)は、右のいずれの方法によっても算定できないときの手段として用意された方法であり、個人企業における事業財産を算定する場合と同様に、その会社の正味財産の時価、すなわち客観的交換価値に着目した価額であり、一般的に発行法人が個人企業と事業規模あるいは経営の実態において変わらないような会社であり、その株式等を通じて会社財産が完全支配され、その株式等は会社財産に対する持分的な性格が強いと認められるような会社の株式の価額を算定する場合に合理性を有する算定方法である。

 

 3 本件株式の価額の算定

 

 (一)本件通達の(4)イによれば、売買実例のあるものについては、最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額によることとされているが、本件では、最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額の売買実例は認められず、通達の(4)イによって本件株式の価額を算定することはできない。

 

 (二)本件通達の(4)ロの類似法人とは、前記のとおり、事業の種類、規模及び収益の状況等のいずれもが類似する法人を指すものというべきであるところ、本件会社は、鋼製物置及び鋼製家具の原料となる鋼板等を仕入れ、それを加工し、鋼製物置及び鋼製家具を製造販売する会社であり、その売上構成割合は鋼製物置及び鋼製家具がそれぞれ約半分づつを占める会社であるが、右のような、鋼製物置を主力とし、鋼製家具製造販売をも業とする法人は存在しない。

  したがって、本件通達の(4)ロによって本件株式の価額を算定することはできない。

 

 (三)(1)原告らは、本件会社の類似法人として、株式会社淀川製鋼所(以下「淀川製鋼所」という。)、東洋鋼鈑株式会社(以下「東洋鋼鈑」という。)及び株式会社くろがね工作所(以下「くろがね工作所」という。)が存在すると主張するが、これらの会社は、次に述べるとおり、いずれも類似法人には当たらない。

 

 (2)ア 淀川製鋼所は、主に鋼板(製品材料)を製造販売する会社であり、売上げの三割を占める建材の部のエクステリア分野に、鋼製物置である商品名「ヨド物置」を製造しているものの、その売上げは本件会社のように総売上高の半分を占める程のものではなく、本件会社とは根本的に業種を異にし、本件会社と事業の種類が類似する法人とはいえない。

 

イ 東洋鋼鈑は、主にブリキ等表面処理鋼板の製造販売を行っている会社であり、鋼製物置については、その総売上高に占める割合は極めて低く、その材料を子会社に売上げ、加工品を販売する形態をとっているものであって、本件会社とは根本的に業種を異にし、本件会社と事業の種類が類似する法人とはいえない。

 

ウ くろがね工作所は、事務用家具及び家庭用家具の売上げが総売上高の八割以上を占める会社であり、その製造品目に鋼製物置は含まれておらず、本件会社と事業の種類が類似する法人とはいえない。

 

 (3)また、株価を形成する要因には、会社の収益力、資産、配当、将来性や投資家の思惑等があり、それらが影響して株価を形成すると考えられるところ、本件会社と原告らがその類似法人であると主張する右三社とでは株価形成要因が異なるというべきである。

  すなわち、株価を形成する要因の一つである会社の収益力について、本件会社と原告らの主張する類似法人とを対比すると、本件会社は、最終商品である鋼製物置及び鋼製家具が売上高の約半分づつを占める会社であるのに対し、淀川製鋼所は製品材料である鋼板を主に製造・販売(約六〇パーセント)する会社であり、東洋鋼鈑は熱延コイルを主原料として、製品材料であるブリキ等を主に製造・販売(七五パーセント)する会社であり、くろがね工作所にあっては鋼製物置の売上高はなく、事務用家具・家庭用家具の売上高が八〇パーセントを超える会社である。

  右のとおり、右三社の収益力による株価形成要因は、右三社が有する本件会社と類似する事業部門以外の事業部門によって大きな影響を受けていることは明らかであり、本件会社とは、収益力の点においても、全く異なるものである。

 

 

 

 

 (四)本件において純資産価額方式を用いることの合理性

 

 (1)株式の評価については、株式が本来的に会社資産に対する割合的持分としての性質を有し、会社の所有する総資産価値の割合的支配権を表象したものであることにかんがみれば、元来、会社の総資産の価額を株式数で除したものが一株当たりの株式の価値であるということができる。

 

 (2)そして、商法二〇四条の四第項が株式の譲渡価額決定の際に「会社の資産状態その他一切の事情を斟酌する」と規定して純資産の価額を重要視していることなどに照らせば、本件株式のような公開市場において、客観的交換価値の確立されていない取引相場のない株式の算定については、基本的には、純資産価額方式によるべきである。

 

 (3)本件会社は、平成二年七月二三日当時、法人税法二条一〇号に規定する同族会社であり、亡Aを含む同族株主一五名でその株式数の九九パーセントを所有していたのであり、また、同社の株式を譲渡する場合には取締役会の承認を受けなければならないため、同族以外の者が株主になる可能性が存しない。

  このように、本件会社は、閉鎖性の強い個人企業とその経営の実態が変わらない会社であるというべきである。

 

 (4)したがって、その株式の所有は同社の会社財産に対する持分的な性格を有しているといえるのであるから、本件株式の価額の算定方法は、純資産価額による算定方式で行うことが最も合理的である。

 

 

 

 

 

 (五)相続税における取扱いとの差異

  一定期間における所得を対象として課税する所得税と被相続人の遺産を対象として課税する相続税とでは、その課税対象、目的を異にしている。

  したがって、所得税においては、非上場株式の評価に際しても、取引当事者が実際に株式の譲渡取引を行っていること、当該取引に係る所得はその取引の発生した期間に帰属させるべきであることなどにかんがみると、当該取引時点の客観的評価額を求めることが適正、かつ、公平な課税の実現に直結しているのに対し、現実に株式の取引がなされているのではなく、相続開始時点において当該株式の譲渡が行われたならばという一種の仮定の下に交換価値を探る相続税においては、評価時点をあくまでも相続開始時点に固定しようとすると、評価の安全性や課税の均衡上必ずしも適当ではない場合も考えられる。

  このような理由から両者の評価に係る取扱いも異なっているものであるから、相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付直資五六、直審(資)一七。以下「財産評価基本通達」という。)において、大会社の評価方法として、原則的に類似業種比準方式が採用され、純資産価額方式がとられていないとしても、かかる株式の時価算定の考え方は、譲渡所得における株式の時価算定に際しては参考にはならない。

 

 

 

 4 公開後の自社株式の市場価額を基礎とする算定方法について

 また、原告らは、本件株式の評価について、店頭公開後の市場価額を基礎として平成二年当時の本件株式の時価を算定する方法によって株式の時価を算定したと主張し、右価額との比較から、純資産価額方式による算定結果は不合理であると主張する。

  しかし、原告らが主張する右の方式は、平成一〇年六月三〇日の本件会社の株価を基に同日の日経平均株価二二五種と平成二年七月二三日の日経平均株価二二五種の相違から求めた時点修正率を乗じて同年七月時点の本件株式の時価を求めるというものであるが、日経平均株価二二五種は、特定の銘柄(二二五社)の株価の合計を銘柄数で除した平均値であり、個々の銘柄の株価の上昇や下落を直接反映するものではないから、これをもって時点修正率を算出し、課税時期における本件株式の時価を算定しようとしても、それが合理的な算定方法であるとは到底いえないし、八年という長期にわたる時点修正率を適用する点においても、正確性を期し難い。

  したがって、このような算定方法は、到底、本件株式の時価を算定する上で採用できるものではなく、これにより算定した価額も本件株式の時価を現すものとはいえない。

 

 

 

 5 本件現物出資により取得した出資の価額の算定方法

  所得税法三三条に規定する譲渡所得の基因となる資産を現物出資し、株式等を取得した場合における譲渡収入金額は、当該現物出資により取得した株式、出資等の取得時の価額(時価)であると解されるところ、これを本件現物出資についてみると、別表3の2ないし4のとおり、本件現物出資により取得した出資の当該取得の時(平成二年九月一九日)における出資一口当たりの価額は六万五八二二円となる。

 

 

 (原告らの主張)

 

 1 本件通達の解釈

 

 (一)本件株式は、取引相場のない株式であるところ、このような株式の時価評価方法を定めた本件通達は、①取引実例があればその価額、②取引実例がない場合は、事業の種類、規模、収益状況が類似する法人がある場合は、その価額に比準して推定した価額、③これらの方式によっても株価が算定されない場合は、純資産を基礎に株価を算定するとしているように、株式の特性である流通性を基本としているから、右純資産を基礎にする株価算定は、およそ株式の流通が考えられず、単なる持分的性格の強い個人会社のような例外的場合を想定していると考えるべきである。そこで、これを株価算定方法として用いる場合は、当該株式会社が個人と同じ性格を有する小規模な株式会社(従業員が数名、売上げも数億円程度、会社運営形態は個人による経営判断に任せられるような実態の会社)に限られると解すべきである。

  これらの考え方は、株式の流通証券としての特性と持分的性格との幅に応じたものであり、小会社でも、他に事業の種類、規模、収益の状況等が類似する会社があった場合に、類似法人比準方式により株式を算定されると不合理な結果となること及び大会社で店頭公開が近い場合でも、他に事業の種類、規模、収益の状況等が類似する会社が存在しない限り、純資産価額方式で株式を評価されると不合理な結果となることに照らしても合理性が裏付けられる。

 

 (二)以上の考え方からするならば、人的、物的に大規模な会社は、個人会社のような単純なる清算はおよそ考えられないのであるから、その株式算定に当たっては、株式の流通性を前提とした算定方法を採るのが本件通達の解釈上からも妥当である。

  そして、類似法人比準方式については、事業の種類、規模、収益状況のすべてが一致しなければならないという考え方は、株式の特性に反するばかりでなく、およそ右要素が一致する法人などあり得ず、本件通達を空文化することとなり、本件通達の実際的機能を無視することとなるから、このような考え方を採ることはできない。

 

 (三)なお、会社を大会社、中会社、小会社とに区分した上で、大会社について、財産評価基本通達一七九が、純資産価額方式とらず、類似業種比準価額によって株式の時価を算定するものとしたのは、大会社が完全に継続的な営業活動をしていることに着目しているのであり、前記の考え方と同趣旨であるというべきである。

 

 

 

 

 2 本件株式の時価の評価

 (一)類似法人比準方式による評価

  本件会社の類似法人を、淀川製鋼所、東洋鋼鈑及びくろがね製作所として、類似法人比準方式によって、本件株式を算定すると、本件株式の時価は一株当たり一八三一円となる。

 

 (二)これに対し、被告らは、類似法人に当たるためには、事業の種類、規模、収益状況のすべてが一致しなければならないとした上で、右各社は、類似法人とはいえないし、この他にも類似法人に当たる会社は存在しないと主張する。

  しかし、本件株式の時価の評価に当たっては、後記のとおり、純資産価額方式によることは許されないから、類似法人比準方式の基本的立場から本件会社株式の価額を考究しなければならず、算定不能のみでは純資産価額方式を採る理由とはならない。そして、その場合には、事業の種類、規模、収益状況のすべてが一致する必要はないと解すべきである。

 

 (三)(1)本件株式の時価の評価を純資産価額方式によることは、以下のとおり、合理性を欠くものであり、許されない。

 

 (2)すなわち、本件会社においては、将来にわたり営業活動を継続する体制(大規模な機械、工場設備、大規模な会社敷地、研究開発設備、継続的人事体制など)が完全に整備され、また営業種目もスチール製ハコ(家具物置)物品を製造しているものであって、会社の営業活動が永く継続されることは明らかである。

  また、同社の営業は客観的合理的判断(高度な市場調査、高度な資金計画、高度な新製品開発システム、高度な量産体制及び合理的な人事考査による労働体制の完備、合理的かつ適確な市場動向を見極めた原材料の購入等)により行われており、会社経営は、同族による会社支配ではなく、一般化、客観化しており、株式が店頭公開された会社と同様の実態が存していた。

  さらに、本件会社は昭和二五年一一月に株式会社となってからでも相当の歴史を有する会社である上、平成二年はもちろん、現在でも業績は順調であり、着実な発展を遂げている会社であって、さらに、平成九年には、株式の店頭公開を行っていることからすれば、本件株式は、平成二年当時においても、持分的性格ではなく、流通性のある株式と同様に観念的形式的性格を有していたというべきである。

  したがって、本件株式の評価を純資産価額方式によることは合理性を欠いており、許されない。

 

 (3)また、本件会社は、平成一〇年六月五日、日本証券業協会の店頭売買有価証券登録原簿に登録銘柄として新規登録されたが、店頭公開された本件会社の株式の価額は、同日、一八〇〇円、同月三〇日、一三一〇円、同年九月二日、九〇〇円であった。

  本件会社は、平成二年から八年後に右のとおり、株式を店頭公開するに至ったが、その間、本件会社の従業員数、業務内容にはほとんど変化がないから、店頭公開をすることにより、市場において客観的に決定された価額を基礎として、平成二年当時の本件株式の時価を算定することが可能であり、この方法(以下「自社比準評価方式」という。)は、株式の流通性を基礎とするものであるから、正確な株式の時価に迫る方法として、合理性を有するものである。

  具体的には、株価を構成する基本要素として「会社の当期利益」、「総資産(簿価)」、「配当」の三要素に着眼し、これを基準として、それぞれ株価の三分の一の割合で機能するものとした上で、株式市場の変化を示す日経平均株価の平成二年七月二三日(三万一八九七・七九円)と平成一〇年六月三〇日(一万五六三〇・三七円)の比率二・〇一を補正要素として、本件株式の価額を算定すると、別表4のとおり、一株当たり二〇一四円となり、実際の売買価格である一株当たり二〇二〇円に極めて近似する。

  さらに、未公開株は流通性が低いために公開株に比べて株価が低くなることから、これに相当する〇・七を補正要素とすると、一株当たり一四〇九・八円となる。

 

 3(一)以上によれば、本件株式の時価は、一株当たり一八三一円を上回ることはないというべきところ、本件株式の譲渡については、本件株式の譲渡価額は一株当たり二〇二〇円であって、この金額は、本件株式の譲渡の時点(平成二年七月二三日)における価額の二分の一に満たないとはいえないから、所得税法五九条の規定が適用される余地はない。

 

 (二)そして、本件株式の売買価格である二〇二〇円に基づいて本件株式譲渡に係る譲渡収入金額及び本件現物出資に係る譲渡収入金額を算出した原告らの確定申告及び原告Bの修正申告はいずれも適法なものであるから、本件課税処分は、いずれも取り消されるべきである。

 

 

 

 五 争点

  したがって、本件の争点は、亡A及び原告Bの平成二年分の各所得税の算定に当たって、本件株式の時価を純資産価額方式によって算定して、本件株式譲渡に係る譲渡収入金額及び本件現物出資に係る譲渡収入金額を算定したことが違法であるか否かである。

 

 

 

 

 

 

 

 第三 当裁判所の判断

 

 一1 所得税法三六条一項、二項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき全額は、権利をもって収入する場合には、当該権利を取得する時における当該権利の「価額」と定め、さらに、同法五九条一項二号は、法人に対し、著しく低い価額の対価として政令で定める額により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における「価額」に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨を定めているところ、右にいう「価額」とは、いずれも、譲渡所得の基因となる資産の移転の事由が生じた時点における時価、すなわち、その時点における当該資産等の客観的交換価値を指すものと解すべきであり、右交換価値とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって、いわゆる市場価格をいうものと解するのが相当である。

 

 2 しかしながら、本件株式のように、取引相場のない株式については、そもそもそれが自由な取引市場に投入されていないため、自由な取引を前提とする客観的交換価値の把握は極めて困難であって、でき得る限り合理的な方法によってこれを推認するほかはない。

 

 3 そこで、課税実務上、右のような取引相場のない株式の価額の算定に用いられている本件通達に定める評価方法の合理性の有無を検討することとする。

 

 (一)本件通達は、最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額の売買実例がある場合にはその価額によることとしているが(同通達の(4)イ)、時価とは、その時点における客観的交換価値をいうものと解すべきであるから、右のように、当該会社と特殊な関係を持たず、株式の価値を正当に認識した当事者間で成立した適正な売買実例が存するような場合には、右価額をもって、時価と認めることには合理性があるというべきである。

 

 (二)また、右のような適正な売買実例がない場合でも、株式評価の対象となる法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する法人の株式の価額があるときには、右価額に比準して推定した価額は、株式の価格形成要因を個別的に抽出して評価するときよりも、自由な取引を前提とする客観的交換価値により近似する評価を得ることが可能であるから、このような前提が満たされるときには、右の評価方法によって得られた価額を時価と認める類似法人比準方式(本件通達の(4)ロ)には合理性があるということができる。

 

 (三)さらに、本件通達は、右のいずれの方法も採り得ない場合の算定方式として、当該払込期日又は同日に最も近い日における株式等の発行法人の一株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額をもって時価と認める純資産価額方式(本件通達の(4)ハ)を定めている。

 

  右は、基本的に純資産価額のみに着目した評価方式であるから、事業に供された各資産から生ずる収益を考慮しないなどの欠点を有するものではあるが、評価会社の事業が順調に遂行され、一般投資効率を超える収益を挙げている場合には、事業継続中の企業全体を一体評価した資産の価額は処分価額の合算である純資産価額を超えることが予想されるし、利益が少ないか又は赤字体質である場合には、処分価額による純資産価額方式がより妥当することとなる。

 

  また、純資産価額方式は、会社資産に対する割合的持分という株式の基本的性格とも調和するものである。

  したがって、純資産価額方式は、少なくとも、会社の経営に対して支配的地位を有する株主の保有する株式について、前記(一)及び(二)の各方法によれない場合の算定方法として合理性を有するというべきである。

 

 (四)(1)これに対し、原告らは、取引相場のない株式で、最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額の売買実例がない場合における株式の時価の算定は、株式が、その大量発行によって企業の基礎を形成するものであることからすれば、その持分的性質よりは、株式の特色である市場での流通性を重視すべきであり、そのため、原則として流通性が反映される類似法人比準方式によって算定されるべきものであって、純資産価額方式による時価の評価が許されるのは、個人と同じ性格を有する小規模な会社の株式の時価を算定する場合に限られると主張する。

 

 (2)確かに、株式が大量に発行されている場合の株式の価格は、それが市場において流通することを通して形成されるのが一般的であるから、このような場合の株式の時価の評価に当たっては、右のような形で形成される価格が認定できることが望ましいというべきであり、本件通達が、まず、売買実例のあるものについては、そのうちの適正と認められる価額によるものとし、それがない場合でも、当該法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式等の価額があるものについては、当該価額に比準して推定した価額によるものとしている(類似法人比準方式)のも、同趣旨の考え方によるものと解される。

 

 

  しかし、右の類似法人の株式等の価額に比準して評価対象たる当該法人の価額を推認することが合理的であるのは、右の各法人の間に、事業の種類、規模、収益の状況等株式の価額を形成する主要な要因についての類似性が存するとの前提があるからであり、右のような前提を満たす類似の法人が存在しない場合には、他の法人の株式の価額との比準を行っても、当該法人の株式の価額について、意味のある推定結果を得ることは困難であるというべきである。

 

  そして、売買実例がなく、右のような類似法人も存在しない場合においては、株式が会社資産に対する割合的持分であり、株式の流通価格が市場において決定される場合についての当該会社の純資産がその主要な価格の形成要因であることからすれば、純資産価額方式によることが合理的であると解すべきである。

 

  したがって、純資産価額方式を採ることが許されるのは、個人と同じ性格を有する小規模な会社の株式の時価を算定する場合に限られるとの原告らの主張は採用できない。

 

 (3)また、財産評価基本通達は、大会社の株式の評価を類似業種比準方式(複数の上場会社からなる類似業種の平均株価に比準して株式の価額を求める方式)によることとし(同通達一七九(1)本文)、株式の流通性に対する配慮を示しているが、同通達においても、納税義務者の選択によって、純資産価額方式によって評価することを許しており(同通達一七九(1)ただし書)、また、同通達においても適正な類似業種の平均株価が求め得ない場合には、右方式による算定は合理性のないものとして許されないと解すべきであるから、右財産評価基本通達は、本件通達についての前記の解釈の妨げとはならないというべきである。

 

 

 二1 証拠(甲二、同一七の一、同一七の三、同二一、乙一、証人D)及び弁論の全趣旨によれば、本件株式譲渡及び本件現物出資が行われた平成二年当時、本件会社の事業内容等は、次のとおりであると認められる。

 (一)本件会社は、平成二年当時、資本金二億五〇〇〇万円、鋼製物置及びオフィスにおいて使用されるデスクや椅子等(インテリア製品)のオフィス家具の製造販売をその業務としており、鋼製物置市場におけるシェアは約三二パーセントを占め、淀川製鋼所に次いで、第二位の地位にあった。

 

  右の鋼製物置の製造販売事業は、鋼製物置の製造販売のほか、ガレージ、自転車置場等(エクステリア製品)の製造販売も含まれていた。

 

 

 (二)本件会社の平成二年七月期(第四三期)の状況は次のとおりである。

① 売上高              約三三一億円

② 売上高の構成 鋼製物置    約五一パーセント

         オフィス家具  約四九パーセント

③ 経常利益         約一一億七一〇〇万円

④ 当期利益           約四億一〇〇万円

⑤ 総資産         約三五〇億五六〇〇万円

⑥ 従業員数              一二六三名

⑦ 本社 東京都大田区α五番二五号

   工場 東京工場(東京都)のほか三工場

   営業所 東京営業所(東京都)のほか三営業所

 

 

 2 一方、証拠(甲一、同一〇、同二一、証人D)及び弁論の全趣旨によれば、原告らが本件会社の類似法人であると主張する淀川製鋼所、東洋鋼鈑及びくろがね工作所の平成二年当時の事業内容等は、それぞれ次のとおりであったことが認められる。

 

 (一)淀川製鋼所は、主に鋼板(製品材料)を製造販売する会社であったが、多角化を図り、物置、家庭日用品などの分野に進出し、平成二年当時、同社の鋼製物置は、市場において約三三・八パーセントのシェアを有し、年一間売上高は一六二億円前後であった。

 

  しかし、同社の平成二年三月期における年間総売上高は約一八七六億円であるところ、その約五〇パーセント以上は鋼板の売上によるものであり、鋼製物置の総売上高に占める割合は一〇パーセント以下にとどまっていた。

 

 (二)東洋鋼鈑は、平成二年当時、主にブリキ等の各種鋼板の製造販売を行っていた会社であり、同社の平成二年三月期における年間総売上高は約一二三二億円であったが、そのうちの八〇パーセント近くをブリキ等表面処理鋼板の売上が占めていた。

 

 (三)くろがね工作所は、平成二年当時、主にスチール家具の製造販売を行う会社であり、同社の平成二年一一月期における総売上高は約四〇四億円であったが、そのうちの九〇パーセント近くを事務用家具及び家庭用家具の売上が占めており、鋼製物置の製造販売は行っていなかった。

 

 3 そこで、右事実を前提として、平成二年当時の本件会社と淀川製鋼所ら三社との事業規模、事業内容等を比較して類似性の有無を検討する。

 

 (一)本件会社は、人的物的設備の規模、年間総売上高のいずれの面も、当時既に相当な規模に達していたものであるが、淀川製鋼所及び東洋鋼鈑は、いずれも、本件法人のさらに約四、五倍の年間総売上高のある会社であり、その内容も、淀川製鋼所においては、鋼板の売上が総売上高に占める割合が約五〇パーセントを超える一方で、鋼製物置の割合はおよそ一〇パーセント程度にすぎず、また、東洋鋼鈑においては、鋼板の売上が総売上高の約七八パーセントを占めているなど、本件会社とは、事業の規模、種類及び収益の状況に大きな差異がある。

 

 (二)また、くろがね工作所は、平成二年当時、年間総売上高が本件会社の年間総売上高に近い約四〇四億円と比較的本件会社に近い売上規模の会社であり、主にスチール家具の製造、販売を行っていた点においても、本件会社と類似点がある。

 

  しかし、くろがね工作所は、事務用家具及び家庭用家具の売上が、総売上高の九〇パーセント近くを占め、鋼製物置の製造販売は行ってはおらず、鋼製物置、ガレージ、自転車置場等のエクステリア製品の売上げが年間総売上高の半分を占める本件会社とは、事業の種類及び収益の状況において大きな差異があるといわざるを得ない。

 

 (三)そこで、原告が類似法人であると主張する淀川製鋼所、東洋鋼鈑及びくろがね工作所は、類似法人比準方式を用いる際の類似法人とは認め難いというべきである。

 

  また、右に検討した各社の他に、類似法人としての適格を有する会社があるとも認められない。

 

 (四)これに対し、原告らは、類似法人の選定を厳格にするときには、結局、類似法人が存在しなくなることから、類似法人選定は緩やかに解すべきであると主張するが、事業の種類、規模、収益の状況は、いずれも株価の形成に大きな影響を与える要因であり、これを緩やかに解した場合には、類似法人比準方式によって当該法人の株式の価額を推認する合理性そのものが失われることは前述したとおりであるから、右原告らの主張は採用できない。

 

 4 したがって、本件株式の時価の算定については、類似法人比準方式によって算定することは困難であるといわざるを得ない。

 

 三1 ところで、証拠(甲四、同一七の二、乙一、同二)によれば、以下の各事実が認められる。

 

 (一)本件株式譲渡及び本件現物出資が行われた平成二年当時、亡Aは本件会社の代表取締役の地位にあり、この他の取締役九名のうち、四名が亡Aの親族であった。

 

 (二)本件会社は、右当時、法人税法二条一〇号に規定された同族会社であって、亡Aは発行済株式総数の五七・四パーセントに相当する株式を保有しており、亡Aを含む同族株主一五名は、発行済み株式総数五〇〇万株のうち、四九八万一〇九〇株を保有していた(保有割合九九・六パーセント)。

 

 (三)本件会社においては、本件株式譲渡当時(平成二年七月二三日)及び本件現物出資当時(同年九月一九日)、株式の譲渡には、取締役会の承認を受けなければならない旨の譲渡制限の規定が設けられていた。

 

 (四)平成二年七月期において、本件会社の鋼製家具部門の売上高の増加は前期比二〇パーセントを超えており、鋼製物置の分野の売上高の増加は前期比一四パーセントであった。

 

 (五)本件会社の株式は、平成一〇年六月五日付けで、日本証券業協会の店頭売買有価証券登録原簿に登録銘柄として新規登録された。

 

 2(一)右の事実と前記二1の事実を総合すれば、本件会社は、本件株式譲渡及び本件現物出資が行われた平成二年当時、代表取締役でもあった亡Aが発行済み株式総数の五割を超える株式を有しており、また、亡Aを含む同族株主によって、発行済株式総数の九九・六パーセントが保有されていたのであるから、亡Aらが圧倒的な支配株主であったものであり、また、亡Aが代表取締役の地位にあったほか、その親族らが取締役の半数を占めていたことからすれば、本件会社の経営の実質的支配権も亡Aが有していたものと認められる。

 

  また、平成二年七月期、鋼製家具、鋼製物置のいずれの分野においても本件会社の売上実績は好調であって、その後、平成一〇年には株式の店頭公開を果たしていることからすれば、本件会社の営業実績は、平成二年当時、順調に推移していたものと認められる。

 

 (二)そうであるとすれば、右1に述べた事実関係の下において、参考とすべき最近の適正な売買実例がなく、類似法人比準方式によることもできない本件株式の評価について、純資産価額方式を適用してこれを行うことには、合理性があるものというべきである。

 

 (三)これに対し、原告らは、本件会社はおよそ清算されることがあり得ないものであったから、純資産価額方式によるべきではないと主張するが、前記のとおり、純資産価額方式は、株式は会社資産に対する割合的持分であるとの基本的性格に合致した算定方式であり、本件会社が清算されることが事実上はあり得ないとしても、そのことが純資産価額方式を採り得ない理由にはならない。

 

  また、原告らは、自社比準評価方式によって本件株式を評価すると一四〇九・八円となるから、本件において純資産価額方式による評価が不当であることは明らかであると主張するが、本件会社は、鋼製物置という分野を主たる事業とする会社であるところ、鋼製物置市場は拡大基調で推移してきており、さらに、景気が低迷し、消費が減退した平成九年度にあっても、ほぼ横ばいを維持するなど一般的な景気変動の影響を他の業種ほど受けているとも認められない(甲二二)ところ、

 

 右自社比準評価方式は、時点修正に当たって、日経平均株価の変動による一般的な補正をするのみであり、また、八年間という長期間の時点修正を行わざるを得ない点からして、このような算定方法は、個別の会社の株価を評価し、算定する方法としては、合理性を欠くものといわざるを得ない。したがって、この点に関する原告らの右主張も採用できない。

 

 四1 そして、純資産価額方式により本件株式の価額を計算すると、別表3の1記載のとおり、本件株式の平成二年七月二三日における一株当たりの価額は五六〇一円となること、これを前提とすると、本件株式1の譲渡に係る譲渡収入金額は七〇億六九八六万二二五〇円、本件株式2の譲渡に係る譲渡収入金額は七一四一万二七五〇円となること、さらに、純資産価額方式により本件現物出資により取得したイナバデリバリィの出資の価額を計算すると、別表3の2ないし4記載のとおり、本件現物出資時点である同年九月一九日におけるイナバデリバリィの出資一口当たりの出資の価額は六万五八二二円となり、本件現物出資1に係る譲渡収入金額は七一億六八〇一万五八〇〇円、本件現物出資2に係る譲渡収入金額は七二四〇万四二〇〇円となることについては、原告らは明らかにこれを争わないから、自白したものとみなす。

 

  これらと前記の争いのない金額を基にして平成二年分の亡Aの所得税を計算すると、分離課税の株式等の譲渡所得金額一〇七億五九七五万一九二八円、納付すべき所得税額二四億一九九二万八五〇〇円となり、他方、原告Bの平成二年分の所得税を計算すると、分離課税の株式等の譲渡所得金額一億〇八六八万四五一四円、納付すべき所得税額二二四〇万七九〇〇円となる。

 

  したがって、本件更正処分1及び本件更正処分2に係る分離課税の株式等の譲渡所得金額、納付すべき所得税額は、それぞれ右の金額と同額であるから、いずれも適法である。

 

 2(一)また、原告らは、亡Aの平成二年分所得税に係る課税標準及び納付すべき税額を過少に申告していたものであるところ、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も認められない。

 

  したがって、原告らに対しては、通則法六五条により、過少申告加算税が賦課されるところ、その税額は、本件更正処分1により原告らが新たに納付すべきこととなった税額一六億五六一五万円(本件更正処分1による税額二四億一九九二万八五〇〇円から本件確定申告による税額七億六三七七万四九〇〇円を控除し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額一億六五六一万五〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき本件更正処分1により新たに納付すべきこととなった税額一六億五六一五万三六〇〇円のうち、期限内申告税額相当額七億八八〇七万二六二四円を超える部分の税額八億六八〇八万円(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額四三四〇万四〇〇〇円とを加えた金額二億〇九〇一万九〇〇〇円となる。

 

  そして、本件賦課決定処分1における過少申告加算税額は右金額と同額であるから、本件賦課決定処分1は適法である。

 

 (二)また、原告Bは、原告Bの平成二年分所得税に係る課税標準及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、また、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も認められない。

 

  したがって、原告Bに対しては、通則法六五条により、過少申告加算税が賦課されるところ、その税額は、本件更正処分2により原告Bが新たに納付すべきこととなった税額一六七二万円(本件更正処分2による税額二二四〇万七九〇〇円から本件修正申告による税額五六七万九一〇〇円を控除し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額一六七万二〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき本件更正処分2により新たに納付すべきこととなった税額一六七二万八八〇〇円のうち、本件修正申告により納付すべき税額五七六万〇三七二円を超える部分の税額一〇九六万円(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額五四万八〇〇〇円とを加えた金額二二二万円となる。

 

  そして、本件賦課決定処分2における過少申告加算税額は右金額と同額であるから、本件賦課決定処分2は適法である。

 

 五 以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がない。

 

  よって、主文のとおり判決する。

     東京地方裁判所民事第二部

         裁判長裁判官  市 村 陽 典

            裁判官  阪 本   勝

            裁判官  村 松 秀 樹