偽り、その他不正の行為(26)




引き続き裁判所の判断です。








(11)D税理士は,E税務署員と共謀のうえ以前から行っていた脱税を控訴人の譲渡所得税の申告手続においても行うこととし,平成3年2月中旬ころから3月上旬ころにかけて,虚偽の転居通知をして荻窪税務署に控訴人外6名の平成2年分の譲渡所得に係る課税資料を送付させ,同署に勤務していたE税務署員にこれを廃棄させた。その上で,D税理士は,同年3月15日,被控訴人に対し,控訴人の平成2年分の所得税につき,総合課税の所得金額999万3048円,納付すべき税額7100円とする確定申告書を提出し,本件土地の譲渡に係る譲渡所得については申告も,納税もせず,控訴人から納税資金として預かった1800万円を領得した(乙4,8)。



(12)そのころ5つの大学で講義をし多忙を極めていた控訴人は,納税予定額1800万円で不足がないか心配し,妻を通じてD税理士に確認させ,D税理士から申告手続が無事完了し追加納付分はないとの返事を得て安心し,その後はD税理士に対して上記申告書の控えの交付を求めることもなく,平成2年分の所得税7100円が銀行振替され,以後,平成9年まで,控訴人の所得税の申告手続をD税理士に委任していた。



(13)控訴人は,D税理士の脱税が発覚した後の平成9年12月12日,渋谷税務署の係官のしょうようを受け,被控訴人に対し,平成2年分の所得税について,本件土地の譲渡に係る所得を加えた本件修正申告をし(総合課税の所得金額1036万5148円,分離課税の所得金額4882万2934円,申告納税額2552万7800円,予定納税額23万4200円,納付すべき税額2529万3600円),納付すべき税額2529万3600円から既に納付済みの7100円を控除した新たに納付すべき税額2528万6500円のうち,平成8年分所得税の還付金により充当された21万9300円を除く2506万7200円につき,平成9年12月24日に160万円,平成10年1月23日に400万円,同年2月5日に400万円,同月6日に1546万7200円を各納付した(甲8,10の1~4,12,乙10)。



(14)控訴人は,平成9年12月19日,本件各賦課決定処分を受け,平成10年2月12日,被控訴人に対し,異議申し出をし(同年5月22日棄却),同年6月19日,国税不服審判所長に対し,審査請求したが,平成12年3月16日棄却された。



(15)E税務署員は,平成10年7月3日,D税理士から,上記(11)の平成3年2月中旬ころから3月上旬ころにかけての課税資料廃棄の謝礼として合計850万円の支払を受けた加重収賄の罪により懲役3年の有罪判決を受け(乙1),D税理士は,平成10年7月21日,平成6年から平成8年にかけて行った所得税法違反及び贈賄の罪で懲役4年6月,罰金7000万円の実刑判決を受けた(乙2)。






4 争点(2)について



(1)以上の認定事実によれば,税務に疎かった控訴人は,平成3年2月下旬ころ,何が経費となるものかどうかもよく分からないまま,D税理士に手持ちの資料を示し,あるいは資料はないが本件不動産の購入から売却までの出費を述べて,D税理士からは,譲渡所得税額は概算では2600万円となるがD税理士が受任した場合には1800万円程度で済ますことができるであろうとの説明を受け,銀行借入の利息を必要経費に算入した場合の譲渡所得税額の概算は2310万円程度になることを理解し,更にD税理士の専門的な知識に基づいて正確な計算をし控除可能な諸経費を控除する等すれば最終的には税額が1800万円程度にまでなるものと理解したものと認められ,この際,


 控訴人が資料を示さなかった支出も控訴人の認識において現実の支出又は財貨の移転を伴ったものであり,架空の経費を告知したものではなかった。また,控訴人は,初対面であったD税理士の税理士としての信用を知人に確認した上で,D税理士に税務代理を委任したものであり,税額の大さを考えれば,このような慎重さは当然であり,このことから,D税理士の税額の概算及び説明に不正の疑惑を感じていたのに,あえて税務代理を委任したと解することは相当でない。


 なぜなら,不正の疑惑を抱きながらあえて委任するのであれば,事情を知らない第三者に信用を確認する理由はないからである(第三者は適正な業務を行う税理士であるか否かの観点から回答するのであって,巧みに不正をしていたことを回答したものではない。)。


 また,特段の事情や経緯がないのに,税理士が初対面の受任前の相談者に不正な申告をすることを仄めかしてその信頼を失う危険を敢えて冒すとは考えられない。


 さらに,D税理士は,当初から,初対面の控訴人から譲渡所得に関する税務代理を受任し,税額名下に納税資金を預かることを目的としていたものであり,預かるべき納税資金が多いほど(適正な税額に近いほど)利益となる関係にあり,税額が少なくて済むとの話も,相談者がD税理士に税務代理の委任をする動機付けになれば足りるのであって,セールス・トークとしても,相談者が積極的に不正手段を容認している場合以外は,むしろ,不正な手段によることなく最大の利益を得るとの説明をすることが合理的であり,控訴人が初対面のD税理士に対して,不正手段による課税回避を容認している旨の表示をしたと認めるべき事情のない本件では,D税理士は,自己に委任すれば,適法に多大の節税効果を得ることができる旨の説得をしたものと解することが相当であり,D税理士が,不正な手段による税額の圧縮を仄めかしたことを窺わせる証拠もない(1800万円と5万円の領収書の形式を変えた点も,控訴人を信頼させるため,金銭受領の趣旨が異なることの外観を明らかにしたものと認められる。)。