隠ぺい又は仮装(32)

 

 

引続き裁判所の判断を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野口忠男に対する謝礼について

 

 

 原告は、本件取引に関し、野口忠男に謝礼八〇〇万円を支払ったとして、これを本件取引に係る経費として主張する。

 

 しかし、成立に争いがない乙第二〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本訴本人尋問において、原告と野口との間で、本件取引に関して、謝礼を供する約束等が行われた事実はない旨を述べているのに対し、審査請求の段階では、本件取引により得た利益を野口と折半する約束があった旨を述べており、原告の右謝礼に関する供述は、重大な事実について一貫性を欠いていることが認められるから、これを信用することができない。

 

 

 また、〈証拠〉によれば、右野口が,審査請求段階で、原告から本件取引に関し、謝礼として八〇〇万円を受領した旨を述べていることが認められる。しかし、右証拠における野口の供述によれば、本件取引に関して野口が原告に対して行った助言の内容は、野口が同人の商品取引を業としている知人から勧められた銘柄を原告に勧めたというものであり、謝礼等については、利益が出たら少し呉れるという程度の話があったにとどまるというのであるところ、右の程度の情報の提供の謝礼として、具体的な約束がないのに八〇〇万円もの金員を支払うことは通常あり得ないことである。

 

 

 また、右証拠によれば、野口は、右八〇〇万円の使途については、預金等にすることなく、同人の部下と五人位で飲んだり、衣服を買ったりして全部使ったもので、右八〇〇万円について確定申告を行った事実はない旨を供述しており、右使途は八〇〇万円もの金員の使途として不自然である。

 

 

 そして、野口の供述する右八〇〇万円の支払については、これを裏付けるに足りる客観的証拠は何ら存在しないことが認められる。

 

 右各事情に鑑みると、野口の供述も、にわかにこれを採用することができない。

 

 

 したがって、原告主張の謝礼の支出の事実は、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の主張は失当である。 

 

 

 

 

 なお、原告は、昭和五二年分の売買について生じた損失を他の所得金額と通算しないことを不公平であると主張する(被告の主張に対する認否及び反論2(四))が、原告の株式の取引に係る所得が雑所得に該当することは前記のとおりであり、したがって、右取引上損失が生じても、これを他の所得との間で損益通算すべき法的根拠は存在しないから、右主張は失当である。

 

 

 以上によれば、本件取引による所得は原告の昭和五一年分の雑所得となり、雑所得金額は、右取引に係る収入金額一五億八五九六万五一四七円から右収入に係る株式等の取得価額、手数料等の経費一五億五一七七万六二八四円を控除した三四一八万八八六三円となる。

 

 

 

 

 

 原告の昭和五一年分の不動産所得の金額及び給与所得の金額が被告の主張1、1、2のとおりであることについて当事者間に争いがないから、原告の同年分の総所得金額は、右認定の雑所得金額及び右各所得の金額を合計した五七〇九万七〇五八円となる。

 したがって、本件更正処分に係る総所得金額は、右総所得金額の範囲内にあるから、本件更正は適法である。

 

 

 

 重加算税について

 

 

 課税の対象となる所得を生ずべき株式等の取引を他人名義又は架空名義で行った者が、右取引により所得を得ていることを認識しながら、これを申告していない場合には、特段の事情がない限り、右所得の発生又は帰属を隠ぺいすることを一つの目的として右のような名義を使用したものと推認することが相当である。

 

 

 前記三1記載の各証拠、〈証拠〉によれば、原告は本件取引のうち、日興証券株式会社における番号六、七、一七の取引についてのみ、原告名義を使用し、その他の売買は、他人名義又は架空名義を以て行っていたこと及び右他人名義又は架空名義の使用は、原告自身の指示に基づくものであることが認められる。そして、右各番号の取引は、いずれも株式の買付けであるから、本件取引の外形上、原告名義の取引によっては、原告に所得が生じていなかったことになる。

 

 

 他方、前記認定の諸事情を総合すれば、原告は、本件取引による所得が原告に帰属するものであることを認識していたものと推認することができ、また、原告が本件取引による所得を確定申告していないことは弁論の全趣旨により明らかである。

 

 

 右認定の各事実を総合すれば、原告は、所得の発生又は帰属を隠ぺいする意図のもとに株式等の売買を他人名義又は架空名義で行い、原告に株式等の譲渡による所得が生じていないかの如き外観を創出したうえ、

 

 

 現実に生じた右所得を確定申告していなかったものと認めることができるから、

 

 本件は、国税通則法六八条一項所定の「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するものということができる。

 

 右認定事実に反する事実を前提とする原告の主張は、採用することができない。

 

 そして、本件重加算税の税額は、適法な本件更正に基づき原告が納付すべき税額に同法六八条一項(昭和六二年九月法律九六号による改正前のもの)所定の一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額に相当することが認められるから、本件重加算税賦課決定は適法なものというべきである。