交際費課税(5)

 

 前回までは寄付金との違いが検討されましたが、今回は他の隣接勘定に費用をもぐり込ませた場合で、税務署に細かく指摘、調査され、東京地裁でも納税者を敗訴させた、これが交際費だ!という事例を見ておきましょう。

 

(1) 福利厚生費勘定にもぐり込ませた交際費等の額

 

 Xが諸会費として損金経理していた金額のうちには交際費等の額34,545円が含まれていた。役員及び一部の従業員が社外において酒類を伴う飲食をした費用であって交際費等に該当するものである。

 

 交際費等とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(もっぱら従業員の慰安のために行なわれる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいう。」と規定されている

 

 そうして、一定限度を超える交際費等の損金算入を否認する趣旨が法人の濫費抑制の点にあることを考慮すれば、法人が従業員等の慰安のために忘年会等の費用を負担した場合、それが法人が社員の福利厚生のため費用全額を負担するのが相当であるものとして通常一般的に行なわれている程度のものである限りその費用は交際費等に該当しないが、その程度を超えている場合にはその費用は交際費等に該当すると解するのが相当である。

 

 そして、忘年会等が右のような意味で通常一般的に行なわれている程度のものか否かは個々の忘年会等の具体的態様、すなわち開催された場所、出席者一人あたりの費用、飲食の内容等を総合して判断すべきであって、社外で行なわれたか否かということだけで判断すべきではない。

 

 銀座アスターで行なわれた忘年会の費用、はサロン・タカナワで行なわれた忘年会二次会の費用であつて、昭和47年12月当時Xから給与の支払いを受けていた者の人数は代表取締役A外10名であつたから右忘年会には右の人数程度の者が出席したものと推認され、また二次会出席者は10名であつたと認められるから、一人あたりの費用は合計約9,000円余となる。右認定の事実によれば、法人が福利厚生費としてこのような忘年会二次会の費用を負担すること自体不相当というべきであるのみならず、その点は仮に措くとしても、右忘年会及び二次会の費用は一般に福利厚生費として認められる範囲を超えていると解するのが相当であるから、交際費等に該当するというべきである。

 

 ホテル・ニユーオータニで行なわれた御用納めの会の費用であって、右会に出席した人数は12名程度であつて、出席者一人あたりの費用は約2,400円余となること及び食事に要した費用が21,600円、飲酒に要した費用が8,026円であることが認められる。右認定の事実によれば、右御用納めの会に要した費用は一般に福利厚生費として認められる範囲を超えていると解するのが相当であるから、交際費等に該当するというべきである。

 

 現行法でも、社内飲食費につては5,000円以下の飲食費等の交際費等からの除外規定は適用されません。

 

(2) 会議費勘定にもぐり込ませた交際費等の額

 

 Xは会議費に該当するとして損金経理していたが、右はいずれもXの役員及び一部従業員が社外において酒類を伴う飲食をした費用であって交際費等に該当するものである。

 

 5人がパブレストラン・ダンケでした飲食の費用であるが、食事代が4,000円、ビール代が600円で一人あたりの費用が920円にすぎないことが認められるが、右認定の事実によれば、飲食の場所がパブレストランであること、量はともかくとして飲酒を伴なっていること等からすると、会議に関連して生じた費用であるとは認められないのみならず、その他当該飲食がどのような趣旨のものであるのか明確に認定するに足りる証拠はないから、右費用は役員ないし一部従業員の慰安ないし接待のために支出された交際費等であると認めるのが相当である。

 

 

(3) 交通費勘定にもぐり込ませた交際費等の額

 

 Xは交通費に該当するとして損金経理していたが、Xの役員或いは従業員が銀座において深夜飲食した後の帰宅費用であると認められるから交際費等の支出に伴う費用として交際費等に該当するというべきである。

 

 Xの関与税理士を社外において接待した後の同人の帰宅費用であると認められるから交際費等に該当するものである。

 

 さらにXの得意先を接待した後のXの従業員の帰宅費用であると認められるから交際費等の支出に伴う費用として交際費等に該当するものである。

 

 関与税理士も心を痛めるところです。

 

(4) 福利厚生費とそれに合わせた交通費勘定にもぐり込ませた交際費等の額

 

 Xは福利厚生費に該当するとして損金経理していたが、右はいずれもXの役員及び一部従業員が社外において酒類を伴う飲食をした費用であつて交際費等に該当するものである。

 

 和49年当時Xの事務所が赤坂にあつた事実を合わせれば、Xの役員或いは従業員が深夜まで銀座で飲食した後の帰宅費用である(原告の役員或いは従業員の帰宅費用であること自体については前記のとおり当事者間に争いがない。)と推認することができる。

 

 ところで、Xはこの点について右は役員或いは従業員の残業後の帰宅費用であると主張するので、右認定を覆して原告の主張を認めるに足りる証拠の有無について検討するに、証人Dは業務に関係のある可能性の認められるものだけが交通費に計上されている旨供述するが、右供述は抽象的であって前記認定を覆すに足りないし、またXの業種は広告宣伝の取扱代理業であることが認められるところ、一般に右業種は他業種に比較して他社との折衝も多く勤務時間も不規則になる特殊性を有していると認めることはできるが、役員或いは従業員の残業後の帰宅費用であることにつき具体的な立証がなされない以上右Xの業種の特殊性のみによって前記認定を覆すことはできず、他に右認定を覆してXの主張を認めるに足りる証拠はない。

 

 従って、Xの役員或いは従業員が深夜まで銀座で飲食した後の帰宅費用であると認めるのが相当であるところ、右飲食が交際費等の支出の対象となる行為にあたるか或いはXの役員、従業員が自己の遊興のためにしたものであるかを認定する証拠はない。しかしながら、仮に前者であるとすれば、交際費等の支出に伴う費用として交際費等に該当するというべきであるし、また仮に後者だとしても、交通費とは役員、従業員の会社負担とされた通勤交通費或いは業務遂行の際に要した交通実費等をいうものと解せられるから、役員或いは従業員が深夜まで銀座で飲食した後の帰宅費用を交通費として認めることは到底できないのであつて、役員或いは従業員に対する慰安ないし接待に要する費用として交際費等に該当するというべきであり、結局いずれにしろは交際費等に該当するというべきである。